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【her story vol.65[後編]】二度の流産、死産、子宮全摘出を体験したその後…

コラム 不妊治療

【her story vol.65[後編]】二度の流産、死産、子宮全摘出を体験したその後…

不妊治療を終えて養子縁組を決意。
ある日突然やってきた赤ちゃんは、初めからわが子だったようにすくすく成長中です。

2020.6.9

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春号では、池田麻里奈さんの長きにわたる不妊治療の経験と不妊相談・流産のグリーフケア、特別養子縁組について学ぶ相談室開設までの道のりを語っていただきました。
今回は、養子を迎えるまでの体験談をお話しいただきます。


※2020年5月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.46 2020 Summer」の記事です。


子宮全摘出後、養子縁組の斡旋団体へ


長い不妊治療を終えて、最後に子宮全摘出の手術を受けた麻里奈さん。入院中に、「子どもを育ててみたい」という気持ちをご主人に手紙で伝えました。そして、返ってきたのは「わかったよ、つきあうよ」という言葉。

なぜ育てることをしてみたいと思ったのか? これについて心理学を学んできた麻里奈さんはこう言います。
「心理学者エリクソンは人生を8つの時期に分けました。7番目に、何かを次世代に残すという課題があります。ほとんどの人は子どもだと思いますが、私にはこの7番目が欠けているから苦しんでいるんだと気づいたんです。不妊治療をしながらも、乳児院で赤ちゃんや子どもとかかわることは私の癒しで、自分の幸せであることを実感したんです」

退院後、まずは児童相談所へ行って里親研修を受けましたが、次は数カ月先という事実に驚いたそうです。
「私がボランティアをしてきた乳児院には次々と赤ちゃんが入所するのに、国の受け入れ態勢がまるで整っていないことを痛感しました」

ここで待っていてはまた年齢だけを重ねてしまうと、次に訪れたのは民間で養子縁組を斡旋している団体。この団体は、子どもを手放さなければならない状況の親と、受け入れる親、そして子どもの3者が幸せになるために、活動をしていることを知ります。心温まるエピソードをたくさん聞いて、虜になったのは意外にもご主人だったのだそうです!すぐに登録をし、書類をそろえ、面談、家庭訪問、そしてWeb研修も受けて、準備を整えました。

そんなある日、団体からもうすぐ生まれてくる赤ちゃんを引き取るつもりはないかという電話が入ります。しかも返事は翌日…。あまりに急に訪れた展開に驚いた麻里奈さんですが、ご主人に相談したところ「断る理由はないよね」という心強い言葉。翌朝ご主人から受け入れる返事をしたそうです。


 


突然訪れた赤ちゃんに戸惑いつつも充実した日々


赤ちゃんが退院するその日、池田夫妻は病院に赤ちゃんを迎えに行きました。託されたのは、生後5日目の小さな小さな赤ちゃん。事情を知っている看護師さんに「応援していますよ」という温かい言葉をかけてもらったそうです。

この日を振り返り麻里奈さんは「すごく不思議な気持ちでした。赤ちゃんは生きている!大変だ!すごいバトンを渡されてしまった!と思いました」。

斡旋団体の方と自宅に帰り、ミルクやお風呂などひと通りのお世話をしたそうですが、「一日で生活が激変しました。今まではのんびり丁寧な暮らしをしてきた私たちが、あっという間にバタバタの日々!」。
肌着はどうやって着せる?何枚いるの?何着て寝るの?名前考えなくちゃ!など突然訪れた毎日にあたふたとする池田夫妻でしたが、こうも感じたといいます。

「過去に流産・死産をした時、1日にして幸せだった世界が消えてしまった経験がありました。赤ちゃんを迎えた日も一日で生活が激変しました。私たち大人は環境の変化についていくのにとにかく必死でしたが、そんななかでも赤ちゃんはスヤスヤ寝たり、うんちをしたり、笑ったり…この子の周りでは、実は誰の手に渡るのか、誰の家に行くかで名前も変わるという大変なことが起きているのに、なんとも幸せそうな顔をして寝ているんです。こんな赤ちゃんを見ていたら、幸せを感じられる激変ならいいじゃない! って心底思えて…」

それからは、麻里奈さんが乳児院などで学んできた「愛着形成」を惜しみなく積み重ねる日々が始まりました。
「この子の基礎を作っているのは私。愛情は私がかけた分だけいつか誰かに返せるはずだと信じて、赤ちゃんが快適に過ごせるように…その気持ちだけで突っ走ってきたような感じです」


 


引き取って9カ月後。ようやく赤ちゃんがわが子に!


赤ちゃんが正式に育ての親の姓になるには6カ月以上の同居期間など条件があります。たとえ池田夫妻が引き取っても、産みの親が裁判所の審判確定前にやはり育てたいと望めば赤ちゃんは親元へ帰ってしまうのです。

審判が下るまでに裁判所調査官や児童相談所からの家庭訪問が数回。そして、審判から2週間以内に生みの親から異議がなければ確定できるという流れ…。生後9カ月を過ぎた頃、ようやく赤ちゃんは池田家の一員になりました。

大丈夫だろうという気持ちがある一方で、やはり生みの親の気持ちが変わるのではないかというひとしずくの不安はあったという麻里奈さんでしたが、とうとう赤ちゃんが本当のわが子になる日が訪れたのです。


 


自分の葛藤や迷いを惜しむことなく伝えたい


晴れて池田姓になった赤ちゃんは、夫妻のもとでたくさんの愛情を受け、元気に成長中。

子育てに奮闘する一方で「コウノトリこころの相談室」の運営もしている麻里奈さん。最近では養子縁組についての話も積極的にしているそうです。「養子縁組の斡旋団体の面接では、子どもが成人するまで安定した経済力はあるか?という質問や「もしも」の話もされます。たとえば子どもの障害の有無や親の状況にかかわらず養子に迎えられるか?など…。自分はどれだけ気持ちが固まっていなかったんだろうと恥ずかしく思ったこともあります。
また、本当に他人の子を愛せるのか?という不安もあると思います。私も血のつながりがない分、赤ちゃんを愛するために“努力”するんだろうと思っていました。ところが、バスタオルにくるまれた赤ちゃんをこの手に抱いた瞬間、守るべき存在ができたと、いきなりスイッチが入ったんです。体調が悪そうなら心から心配し、何でもないとホッとする。体の中から愛情が勝手にわいちゃうくらいなんです。」

また、養子縁組を考えるタイミングについて「不妊治療を終えてから考えず、並行しながら考えてもいいと思います。いろんな人の体験談を聞いてもらい、そこで選択肢があることを伝えていきたいです。葛藤するのは当然、それを認めることでやっぱり不妊治療を継続するのもありだと思うんです。これからも、さまざまな機会で私の体験談を含めてお伝えしていきたいです」。


 


 



出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.46 2020 Summer
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