ウソ! ホント? 妊娠にまつわるウワサの真相
俵 史子 先生(俵IVFクリニック)
Q:出産後は妊娠しやすいってホントですか?
1年半も不妊治療をして体力的にも精神的にも大変だったので、出産後すぐに2人目を希望しています。産後は妊娠しやすくなると聞きますが、実際はどうなのでしょうか。妊娠しやすくなっているなら自然妊娠を願っていますが、厳しいですかね……。私も旦那も33歳です。(ココちゃんさん・33歳)
A:1人目ART後に2人目を自然妊娠する確率は20%程度ですが、科学的根拠はありません
調べてみると、「1人目をARTで妊娠・出産した人が、2人目を自然妊娠する確率はどのくらいあるか」という論文が海外で結構多く存在しています。だいたいどの論文でも、全体の20%程度は2人目のお子さんを自然妊娠しているという結果に。
自然妊娠した方たちの不妊背景を見ると、男性因子や卵管因子はなく、原因不明というケースが多いようです。それはどういうことかというと、原因がわからなくて高度な不妊治療に進み、1人目ができたけれど、もしかしたら治療をしなくても妊娠していたかもしれない。つまり、もともと自然妊娠できる力が備わっていた可能性もあります。
基本的には、1人目より2人目のほうが年齢が高くなることで、妊娠の条件は厳しくなると思います。前回の時よりホルモンの状態が良くなるとは思えませんし、妊娠・出産により子宮環境が変わることはあると思いますが、それが次の妊娠に良い影響を与えるというのは医学的に証明されていません。
結論としては、「1人目を出産した後に2人目を妊娠しやすくなる」という説に根拠はないということですね。全体の20%というのはあくまでもデータ上のことで、どなたでも自然妊娠できるとはいえません。楽観するのは良くないでしょう。
ただ、医学的ではなく、環境的なことで妊娠につながるケースもあるかもしれません。不妊治療中はそれがストレスになってなかなか結果を出せず、治療をお休みしている間に自然な形で妊娠したという方もいらっしゃいます。ココちゃんさんは33歳で時間に少し余裕があるので、まずはひと通りの検査を受けて異常がなければ、しばらく普通に夫婦生活をもたれて、自然にタイミングをみてみるのもいいのではないかと思います。
Q:不妊治療は双子になりやすい?
今、排卵誘発剤を使って治療中です。まだ治療を始めたばかりなんですが、やっぱり、もし幸い妊娠できたとしても双子になる確率って高いのでしょうか? 「双子になるのかな」と思うと正直な気持ち、やはり不安です。(チョコチさん)
A:多胎のリスクは1~20%程度。極力避けるように調整していきます
排卵誘発剤を使用すると当然、複数の卵胞が発育するので、過排卵が起きることは十分考えられます。多胎になる確率は刺激の強さによって異なりますが、飲み薬のセキソビット®なら自然周期とほぼ変わらず、1%程度。クロミフェンになると約5%、FSHやHMGなどの注射を使うと20%くらいといわれています。
これは一般不妊治療における教科書的な数値で、やや高めに感じますが、実際は不妊治療を専門に行う施設ではそこまでの頻度ではないと思います。多胎になる人は1年に1人いるかいないか程度の割合です。
多胎のリスクは念頭に置きつつも排卵障害があると誘発剤を使わざるを得ないケースもあります。そこで、なるべくリスクを回避するために、薬の反応がいいのか悪いのか個々に見極めて、量を少なくしたり、使う期間を短くするなどして、極力過排卵にならないようにコントロールしています。
それでも結果として過排卵になってしまったら、多胎を防ぐために排卵をキャンセルさせて、今周期は生理を待つという決断をする時も。
繰り返し過排卵になる人は、体外受精という選択肢もあります。一般不妊治療の段階だと、注意しても100%コントロールすることはできません。体外受精は現在、胚の1個移植が原則となっているので、多胎のリスクを抑えることができると思います。
Q:排卵日に仲良くすると男の子ができやすい?
いつも楽しく勉強させていただいています。こんな質問はどうかと思ったのですが、やはり気になるので伺います。それは「排卵日に仲良くすると男の子ができやすい」と聞きましたが、本当でしょうか。2日前だと女の子なんですよね? 性別は受精の瞬間に決まるので、そんなに単純ではない気がするのですが……。(とびこさん)
A:昔からそのような説はありますが、その逆や「変わらない」という報告も
インターネットを検索すると、性別の産み分けについてさまざまな方法が記載されています。とびこさんがおっしゃるように、「排卵日の性交渉で男の子、排卵日2日前の性交渉で女の子の産み分けができる」という内容をよく目にしますね。
文献的にみると、確かに1970年代や1980年代の海外の論文でこの産み分けを支持するものは存在しますが、反対に「排卵日の性交渉で女の子が生まれる確率が高くなる」という報告もありますし、「変わらない」という報告も。それは現在のデータでも同様のようです。
どうやらこの産み分けの理屈は、X染色体を運ぶ精子とY染色体を運ぶ性質の違いからきているようです(Y染色体精子はX染色体精子に比べて小さく、酸性に弱いなど)。
たとえば、排卵前の腟内環境は基本的に酸性に傾いており、排卵日になるとアルカリ性に傾く。Y染色体は酸に弱く、X染色体を運ぶ精子はアルカリに弱いとされています。すなわち、腟内環境が酸性であればY染色体よりもX染色体の精子が多く生き残り、アルカリに傾いていればX染色体よりY染色体が多く生き残るといった具合で選択され、結果として一方の染色体をもつ精子が卵子に到達する確率が高くなり、一方の性が生まれやすくなる……ということで、理屈的には説明できるかもしれません。
しかし、受精するのは何百万、何千万といる中の1個の精子。多少そこで振り分けがあったとしても、確実にその条件をもった精子が残って受精するとは限りません。
不妊治療の専門医は、妊娠するためにはどの時期が最も適しているかを考えて治療しています。ですから、根拠がはっきりしていないことに振り回されるよりも、まずは「妊娠する」という目的を一番に考えていただきたいと思います。
俵先生よりまとめ
「1人目出産後は妊娠しやすい」「こうしたら男女の産み分けができる」といった噂は多くあり、実際に学会で報告されたものも存在していますが、そのほとんどは確率、つまり単なる数字的なデータであり、医学的にはっきり証明された根拠はありません。お一人お一人不妊の背景や薬の反応は異なりますから、1つの方法がみんなに効果的とはいえないでしょう。やはり、検査や治療の結果をその都度見ながら、ご自身に合ったやり方で進めていくことが大切だと思います。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn
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