ジネコ妊活セミナー9月10日 「体外受精の現在、過去、未来」
レポート 不妊治療
2017年9月10日に行われたジネコ 妊活セミナーより
体外受精の現在、過去、未来
2017年9月10日(日)、東京日本橋にて「ジネコ妊活セミナー」を開催しました。第1部では、医療法人愛慈会 松本レディースクリニック看護師長の松永久美江さんに「不妊治療全般」について、第2部では同クリニック院長松本和紀先生に「体外受精の現在・過去・未来」についてお話いただきました。今回は第2部の内容を第2弾としてお届けします。
30年以上の歴史がある体外受精
最近、体外受精を受ける方が増えています。原因として女性の非婚、晩婚、そして挙児希望年齢が遅くなっていることなどが挙げられます。
1970年代、29歳までの女性未婚率は20%でした。今は60%、20代の過半数が独身です。70年代の平均初婚年齢は25歳に対して今は30歳です。これは日本だけでなく、先進諸国も同じような傾向にあります。それと共に体外受精の進歩という医学的な側面もあるのですが両面が相まって体外受精が増えているわけです。
体外受精が初めて成功したのは1978年、イギリスです。40年近く前のことです。次に80年にオーストラリアで、81年にアメリカ、そして日本では83年に初めて成功しました。それが、いまや日本で生まれる赤ちゃんの20人に1人が体外受精です。体外受精は決して珍しいことではなくなっています。
体外受精とは、妻の卵巣から十分に成熟した卵子を採取し、夫の精子を振りかけるようにして受精を待ち(これを媒精と言います)、そこでできた受精卵を一定期間培養したあと、妻の子宮腔内に移植し、妊娠を目指す方法です。
精子はあるし、卵子もある。卵巣も子宮もあり、毎月生理もある。なのに妊娠しないのは卵管に原因があることが多いです。子宮内膜症などで卵管周囲に癒着が見つかったり、子宮卵管造影などで卵管に閉塞や狭窄が疑われる場合、受精の場がないために、妊娠できない、すなわち卵管不妊です。それを何とか解決できないかということで多くの医師たちが長きにわたって研究を重ねたおかげで、体外受精という方法が誕生しました。
顕微授精によって体外受精の成功率が格段に高まった!
体外受精実施症例数が増加するなかで、媒精しても受精しない受精障害が多く存在することがわかってきました。この受精障害を克服するために生まれたのが顕微授精という方法です。
顕微授精とは、卵子に極細の針で一個の精子を直接注入させて受精させる方法です。顕微授精の中でもいろいろなやり方があったのですが、今は卵子の細胞質内に針で一個の精子を注入させるICSI法(Intracytoplasmic Sperm Injection)が全盛です。現在は、顕微授精イコール ICSI法と言っても過言ではありません。これまでは多数の精子が必要だったのですが、ICSI法であれば、精子1匹いれば、かなり高い確率で受精できるようになったわけです。
この顕微授精は1990年代、急速に発展しました。その次に体外受精の中で注目されるようになったのが凍結胚移植です。体外受精してできた胚(受精卵)を凍結して移植する方法です。排卵周期は誘発剤の影響で、子宮内膜が薄かったり、卵巣が腫れてしまっていたりと移植に適さない状態のことが多いんです。
でも、胚をいったん凍結すれば、子宮や卵巣を少し休ませることができる。その結果、採卵周期に合わせた体外受精よりも、凍結胚移植のほうが着床率は高くなり、流産率も低くなるということで、今、日本で生まれる体外受精の赤ちゃんの大多数が凍結胚移植です。
そんな中、現在、何が問題かというと移植はしたけど、妊娠率が頭うちだということです。これは先ほども申し上げたとおり、女性の高齢化というのが大きな要素です。赤ちゃんになり得る胚をどうやって生成するか、赤ちゃんになり得ると思う胚をいかに選別するかが最大の課題です。
制度や治療技術よりも大切なのは夫婦が仲むつまじいこと
この10月から東京都でも一般不妊治療、一般不妊検査に関して夫婦一組5万円までの助成金が出るようになりました。ただし、検査開始の時点で妻が35歳以下であること、夫婦共に今年4月1日以降、不妊検査をしていることが条件です。36歳以上の方には不平等だという不満があるかもしれません。しかし、これはつまり35歳以前にできるだけ早く不妊検査治療に入っていただいて、体外受精の段階にならないうちに妊娠してほしいというのが根幹にあるからです。
体外受精の次のテーマは再生医療。山中教授がiPS細胞の作製でノーベル賞もらったのは皆さん、ご存知だと思いますが、iPS細胞による再生医療は網膜移植で臨床治験が始まってます。アルツハイマーなど神経障害に対しても自分の遺伝情報を持ったiPS細胞で神経細胞をつくって再生ということが、次の試みとして始まっています。その他、歯や髪、あらゆる臓器で再生医療の可能性が高まっています。そのなかで、卵子も精子もマウスレベルではできています。自分には先天的に、あるいは病気でとってしまって卵巣がないから、無精子症だからと子どもをあきらめていた人たちにも、子どもを持てる可能性が出てきたということです。まさに夢のような話です。そういうことで、iPSあるいはES細胞によって不妊治療が今後、10、20年後どうなるかはわかりません。今とは随分状況も変わってくるかもしれません。世の中は、必ず進歩していきます。私自身も不妊治療の未来がどうなっていくのか興味津々です。
ただ、体外受精で2回失敗してがっかりしていたら、旦那さんが慰めてくれて、セックスしたら赤ちゃんができたというケースもあります。とにかく、お子さん欲しいという方に私からの最小限のアドバイスとしては、夫婦仲良くむつんでください。人工授精の最大の欠点はセックスレスを誘発すること。できるだけ夫婦仲良くしてむつんだほうが、最終的に体外受精でできたのであっても子育ても家庭もうまくいくものです。40年ちかくやってきて、つくづく思うのは夫婦は一にも二にも仲良くすることが大事ということです。
松本和紀 院長 (医療法人 愛慈会 松本レディースクリニック)
昭和27年埼玉県生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。昭和63年~平成2年、英国ロンドン大学ガイズ病院リサーフェローとして「脱落膜組織の免疫担当細胞の動態」について研究。平成2年に東京慈恵会医科大学に戻り、平成11年に松本レディースクリニック開設。平成24年に不妊治療、生殖補助医療、体外受精を専門に行うクリニックとして再スタート。目下の課題は、良好胚の選別方法の改善,加齢卵子対策。