子宮に異常があると着床がうまくいかない?
コラム 不妊治療
子宮に異常があると着床がうまくいかない?
子宮に問題があると受精卵の着床に影響があるのでしょうか。トラブルがあった場合、その治療を優先させるのか、それとも妊娠が先なのか?
子宮に問題があると受精卵の着床に影響があるのでしょうか。トラブルがあった場合、その治療を優先させるのか、それとも妊娠が先なのか、仙台ARTクリニックの吉田仁秋先生に伺いました。
※2018年8月27日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.39 2018 Autumn」の記事です。
Doctor’s Advice
〜思い悩むより早めの検査を〜
自覚症状がほとんどないケースもあるので、不妊治療で病院に来て初めて子宮の疾患がわかったという人もいます。早期発見が不妊を防ぐことにもなるので、生理痛やお腹の張りなど少しでも変化があれば早めに婦人科を受診し、検査だけでも受けるようにしましょう。
35歳以上なら子宮内膜症より妊娠するための治療を優先
当院で診ている限り、子宮因子の原因で多いのは子宮内膜症と子宮筋腫、それから子宮内膜ポリープも少なくありません。これらは高齢の人に限る疾患ではありませんが、年齢とともに病状が悪化してきている傾向はあるようです。
日本人女性の10人に1人が子宮内膜症で悩んでいるといわれます。これは命にかかわるような悪性の病気ではありませんが、受精から着床まで、妊娠のすべての工程に弊害を及ぼします。進行してくると排卵がうまくいかない、卵胞が育たない、卵管の機能が低下してしまったり。そのために受精さえ妨げられてしまうことも。
子宮内膜症は子宮内腔以外の場所に子宮内膜が増殖してしまう病気ですが、そのうちもっともやっかいなのが卵巣にできる卵巣チョコレート囊胞です。卵巣にできるということは卵管にも影響を及ぼし、炎症を起こして周囲の臓器に癒着してしまう。卵巣も卵管も機能が低下して妊娠が難しくなってしまいます。また、卵巣チョコレート囊胞の人は採卵の時にも注意が必要です。炎症を起こしている所に針を刺すという刺激でより悪化してしまう危険が。ですから、採卵は抗菌薬の点滴をしながら行っていきます。
子宮内膜症があっても妊娠することは可能ですが、なるべく早めに治療をすることが大切。この病気のステージ分類では初期の段階であるⅠ、Ⅱならまだ大きな問題はありません。そのまま放っておいてⅢ、Ⅳと進行していくと、症状がつらくなるだけでなく、妊娠もしづらくなってしまいます。
治療に関して、どの方法をとるかはその方の年齢によって異なってきます。まだ若い方だったら、薬物療法や手術など子宮内膜症の治療を優先させることもあります。子宮内膜症は女性ホルモンにさらされることによって悪化する病気です。薬物による治療は妊娠しないように仕向けていくため、高齢で早く妊娠を望む方にとってはこの方法を選択することは厳しいかもしれません。
卵巣チョコレート囊胞は囊胞が5cm以上の場合に手術の適応になります。しかし手術をすると卵巣機能が多少下がってしまいます。年齢が高い方だったら囊胞を全部切除せず腫瘍部分を取って、中身を抜き、あとはアルコールで固定するという方法も。これなら卵巣の機能低下を抑えられます。
ただし、手術をしても早い場合は3カ月程度で再発してしまうことも。がん化が疑われるなど病状が深刻でないようなら、35歳を過ぎている方は妊娠するための治療を優先したほうがいいかもしれません。
着床部位にできた子宮筋腫やポリープは早めに切除を
子宮筋腫は子宮の筋層から発生する良性の腫瘍です。治療の順番や選択は、どの部位にできたかによって変わるでしょう。子宮の外側に向かって大きくなる漿膜下筋腫なら受精卵の着床などにそれほど影響はありません。子宮の内膜に接しているような場所にできた粘膜下筋腫では受精卵の着床を妨げますから、不妊治療より先に切除することが優先されます。
子宮内膜ポリープも同様で、着床部位に1cm以上のものがあると受精卵が着床しにくいので、早めに治療をします。粘膜下子宮筋腫も子宮内膜ポリープも外来で受けられる子宮鏡で治療することができます。体への負担は少なく、その後、すぐに不妊治療を始めることができます。
子宮内の乳酸菌を優勢にして妊娠・着床しやすい環境に
子宮に関する検査や治療では、最近、ERA検査と子宮内フローラが注目されています。ERAは子宮内膜着床能検査といって、移植当日の子宮内膜が着床に適しているか、内膜組織の遺伝子解析をして調べる検査で、何回か受精卵を戻しても妊娠しない反復不成功の方におすすめしています。移植日のズレを正せば妊娠率が上がるというデータもありますが、費用が高額なのが難点です。
子宮内フローラは、本来、子宮内は悪い菌から環境を守るために善玉菌(乳酸菌)が優勢でなければいけないのですが、これが減少して悪い菌に感染し、妊娠や着床を妨げているということに着目。子宮内の組織を少し採って、よくない環境だったら腟剤や飲み薬で乳酸菌が優勢な状態に戻します。腸内と同じように、子宮内においても乳酸菌フローラの研究が進んでいます。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.39 2018 Autumn
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