6回の移植で2度の流産。PCOSによる卵子の質が原因?
コラム 不妊治療
※2018年8月27日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.39 2018 Autumn」の記事です。
モモさん(34歳)からの相談
▶流産とPCOS
32歳の時にフォリスチム®を使用し、ロング法で採卵。25個のうち9個が胚盤胞になり、計6個の胚盤胞を4回移植しましたがすべて陰性でした。そして、33歳の時にHMGフェリング®を使用し、再度ロング法で採卵。20個のうち13個が胚盤胞になり、2回移植して妊娠しましたが、1度目は稽留流産、2度目は5週で不全流産しました。陰性判定や流産が続いたのは、PCOSによる胚の質の低下が関係しているのでしょうか? 2度目の採卵で妊娠はしましたが、流産を繰り返しています。この時の受精卵で再び妊娠し、出産できるのかとても不安です。
Doctor’s advice
●PCOSの程度はさまざまで、必ずしも卵子の質が悪くなるとは限りません。
●OHSSのリスクを軽減するアンタゴニスト法で、いい卵子が育つ可能性も。
PCOSによって卵子の質は低下するのでしょうか?
PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)は、若い女性に多くみられる排卵障害です。脳下垂体から分泌されるFSH(卵胞刺激ホルモン)とLH(黄体化ホルモン)のバランスが崩れることによって男性ホルモンが優位になり、うまく排卵できなくなります。PCOSの程度はさまざまで、卵子の質が悪くなる人もいますが、必ずしもすべての人に当てはまるとは限りません。
採卵時は妊娠の確率を高めるために、一番大きく育つ主席卵胞から小さな卵胞まで、できる限り多く採りますので、未成熟な卵胞の確率が高くなる可能性があります。それと、人によっては未成熟な卵胞ばかりたくさん育ち、卵胞がセレクションされにくい卵巣環境にあると、そもそも成熟した卵子が採卵できないこともあります。
これまでロング法を2回行っているそうです。排卵誘発法も卵子に影響しますか?
1回目は25個、2回目は20個採卵されていますね。妊娠の確率を高めるために、どうしても採卵数が多くなるのはやむを得ないのですが、それにしても多いと思います。ロング法はたくさん採卵できるメリットがある一方で、採卵後に卵巣が腫れるOHSS(卵巣過剰刺激症候群)のリスクが高くなります。OHSSの疑いがあれば、ロング法よりもアンタゴニスト法(調節卵巣刺激法)のほうがいいでしょう。当院では、月経3日目からHMG製剤を注射し、卵胞がある程度発育してきたらGnRHアンタゴニスト注射をして排卵をうながします。この方法はショート法やロング法のような点鼻薬を使わず、基本的に注射剤だけなので刺激が少なく、卵巣が腫れにくいメリットがあります。また、注射剤の量を加減することでOHSSのリスクを圧倒的に低くすることができます。そのほか、OHSSを回避する目的で、レトロゾールなどアロマターゼ阻害剤(自費診療)を選択できるところもあります。
最後にアドバイスをお願いします。
1回目の採卵25個で胚盤胞9個、2回目の採卵20個で胚盤胞13個になっていますし、残念ながら流産とはいえ2回の妊娠歴があります。ロング法が向いていないことはないと思いますが、排卵誘発法を変えてみるのも一つの方法です。先述のように、ロング法よりも少ない刺激でOHSSのリスクを軽減できるアンタゴニスト法であれば、もっといい卵子ができる可能性はあります。
また、良好胚を複数回移植しても着床しない場合は、着床に最適な移植時期を調べられるERA(子宮内膜受容能検査)を活用してもいいかもしません。当院にはこの検査で妊娠された方もいます。それと流産と不育症は直接関係ありませんが、2回流産を繰り返していますので、念のため不育症検査をされてみてはいかがでしょうか。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.39 2018 Autumn
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