子宮内膜が薄いために 移植を4回キャンセル。 4年間の治療で心が限界に
コラム 不妊治療
子宮内膜が薄いために 移植を4回キャンセル。 4年間の治療で心が限界に
子宮内膜の状態は妊娠にどう影響しているのでしょうか。
また、子宮内膜の状態をよくする方法はあるのでしょうか。
高いAMHや心の状態など気になる点を含めて、
レディースクリニック北浜の奥裕嗣先生にお話を伺いました。
※2019年2月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.41 2019 Spring」の記事です。
- チャッピーさん(40歳)からの相談
相談内容 - 4年間の不妊治療生活に心身ともに疲れ果ててしまいました。流産、子宮外妊娠、卵巣嚢腫などを経験しました。凍結胚移植は3回とも陰性。ホルモン補充周期で試みましたが、子宮内膜が薄いために移植を4回キャンセルしました。もう病院には行きたくない気持ちと、残り5個の凍結胚をすべて戻さないことには諦められない気持ちの半分半分です。今年7月で凍結保存の期限がくるので頑張りたい気持ちもありますが、もう心が限界に達しそうです。今年6月で41歳になります。アドバイスよろしくお願いいたします。
●これまでの治療データ
【AMHの値】20代女性の数値(主治医に高すぎてもダメだと言われました)
【検査・治療歴】ヒューナーテスト、卵管造影・通気通水検査、細菌顕微鏡検査、子宮内膜組織検査、病理組織検査、不育症検査、着床検査、タイミング法2回、人工授精3回、凍結胚移植3回
【妊娠歴】流産、※子宮外妊娠 ※ 現在は異所性妊娠といいます。
【サプリメントの使用】葉酸サプリ
- まとめ
- ●AMHが平均より高いとPCOSの可能性も。
●子宮内膜を厚くするための治療を取り入れて。
●カウンセリングなどを利用して心のケアも。
AMHが20代女性の数値とのことです。数値が高すぎてもよくないのはなぜでしょうか。
一般的に40代の方が体外受精を行う場合に問題となるのは、AMH(抗ミュラー管ホルモン:卵巣予備能を表す)の低下によって、排卵誘発を行っても採卵できる卵子が少なくなることが問題となります。また、年齢とともに、卵子の染色体異常の割合が増えてくることも問題となります。基本的には、AMHが高ければ卵子はたくさん採れますので、40歳でもAMHが高いほうが妊娠に有利に働くことが多いですね。
ただし、AMHが高い方のなかには、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)をベースにもっている患者さんがいます。PCOSの方は、卵子がたくさんできやすいため、基本的には妊娠率は高くなります。一方で、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)のリスクも高くなります。卵子が過剰にできてしまう場合は、排卵誘発の方法を変える必要があります。当院では、注射の種類や量を調整したり、受精卵の凍結法をカスタマイズしたりします。例えばアンタゴニスト法であれば、HCG注射をアゴニストという点鼻薬に切り替えて卵子を成熟させるなど、オーダーメードの治療を行うことによって対応しています。
この方は月経不順ではありませんので、PCOSの可能性は低いと思います。ただ、AMHが高いとOHSSのリスクも高くなるので、担当の先生に「AMHが高すぎてもよくない」と言われたのかもしれませんね。
また、PCOSであると、卵子の質がよくない方がいらっしゃいます。このような場合は、インスリン抵抗性を確認します。治療が必要な方にはメトホルミンの投与や、マイタケ由来の成分でできたグリスリン®というサプリメントを使用することによって、卵子の質を改善できる可能性があります。この方は妊娠歴がありますし、胚盤胞にもなっているので、卵子の質に問題はないと思います。
PCOSの診断は、月経不順や超音波検査で卵巣の状態を確認して行いますので、AMHの数値だけで決めることはできませんが、AMHが平均値よりも高いことも一つの診断基準にはなります。
チャッピーさんは子宮内膜が薄いそうで、移植を4回キャンセルされています。子宮内膜の状態をよくする方法はありますか。
子宮内膜は着床後の受精卵を包み込み、赤ちゃんのベッドになる組織です。卵胞から分泌される卵胞ホルモンの働きで、排卵期には10 ㎜以上の厚さになります。子宮内膜の厚さが不十分な場合は、着床しにくくなります。原因には子宮内膜の炎症や刺激による影響など、さまざまなことが言われています。なかでも子宮内の血流の状態が大きく関与します。血流が悪いと子宮内の着床環境に影響し、子宮外妊娠にもつながりやすくなります。子宮鏡検査で子宮内の状態をある程度診断できます。たとえば、血流が悪い方は子宮鏡下で子宮の色が白っぽく見えることがあります。移植の前周期に子宮鏡検査を行い、治療が必要な場合は、内膜を厚くするための治療を行うことで、着床環境を改善できる可能性があります。
具体的な治療法としては、この方は凍結融解胚移植をホルモン補充周期で行っていますが、これにエストロゲンの量を増やす貼り薬や、飲み薬のジュリナ®を足したり、血流を促進するアスピリン、抗酸化作用のあるビタミンD、プラセンタ注射のラエンネック®などを併用されてもいいでしょう。また当院では、血管拡張作用のあるバイアグラ®やシアリス®といった男性の勃起障害のお薬を腟の中に入れて、子宮内膜を厚くする治療も行っています。
治療がうまくいかず、精神的な限界を感じていらっしゃいます。アドバイスをお願いします。
凍結している受精卵は、いまの年齢で止まっていますが、母体の年齢とともに出産のリスクが高くなっていきますので、早くに移植をされたほうがいいと思います。流産されているということは、子宮内で着床しているということですので、受精卵の質に問題がある可能性は少ないと思います。
流産や子宮外妊娠などつらいご経験をされてきて、もう病院に行きたくないというお気持ちもよくわかります。カウンセラーがいる施設であれば、一人で抱え込まずに、治療と並行してカウンセリングを受けられてみてはいかがでしょうか。
残りの受精卵が5個ありますから、子宮内膜の血流を促す治療で着床環境を整えて、染色体異常でない受精卵に出会えれば、着床するチャンスはあります。医師、看護師、カウンセラーに遠慮せず、精神面のサポートをお願いしましょう。
- 先生から
- カウンセリングなどの心のケアと
子宮内膜を厚くする治療を並行し、母体年齢が若いうちに移植しましょう
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.41 2019 Spring
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