子宮内膜症で採卵が困難。子宮内膜症と不妊、どちらの治療を優先すべき?
コラム 不妊治療
子宮内膜症で採卵が困難。子宮内膜症と不妊、どちらの治療を優先すべき?
子宮内膜症による癒着などのため、卵子が採りにくいという場合、それでも採卵を優先すべきか、先に子宮内膜症の治療を選択したほうがいいのか。
かしわざき産婦人科の柏崎祐士先生に詳しいお話を伺いました。
※2020年2月25日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.45 2020 Spring」の記事です。
- みいさん(41歳)からの相談
● 採卵できない場所に卵胞がある。今後どうすれば - 2014年に右50mm、左36mmのチョコレート囊胞、20mmの子宮筋腫が見つかりました。体外受精で採卵となりましたが、針は刺したものの卵胞ではなく内膜症だったり、2つほどある卵胞が内膜症の裏側にあり、「針を刺すことができない」といわれて結局、採卵できませんでした。次にトライしてもまた採卵できない場所に卵胞ができてしまうのではないかと不安です。採卵時に壁になる子宮内膜症を先に治療したほうがいいのかと思いましたが、先生からは「子宮内膜症の手術は卵巣の機能低下につながるかもしれない」といわれ、悩んでいます。
- Doctor advice
- ●通常以外の採卵は体制の整った病院で。
●高齢なら子宮内膜症の手術より採卵を。
●両方実施している経験豊富な施設も。
困難なケースでも採卵することは可能です
──採卵時、卵巣まで針が届かないことはよくあるのですか。
これは決して珍しいことではなく、子宮内膜症合併の人に時々見られるケースです。子宮と卵巣が癒着してしまい、卵巣がお腹のほうへ移動してしまうと経腟採卵では針が届かず、通常の採卵では困難になります。
みいさんもチョコレート囊胞をもっていらっしゃるとのこと。おそらく、癒着などで卵巣が
本来の位置になかったのではないでしょうか。
──そのような場合、どうやって採卵するのでしょうか。
一般的な採卵法である経腟採卵は子宮の後ろ、背中側にある卵巣に針を刺すのですね。癒着などで卵巣が上に移動してしまった場合は、子宮を貫いて針を刺すことがあります。子宮は血流が豊富な臓器ですが、採卵で使用する針はそれほど太くないので、大量出血や血が止まらないなどの危険はほとんどないと思います。
子宮腺筋症で子宮が大きくなっているとその方法でも難しいことがあるので、経腹で採卵を行います。腟からではなく、お腹の上から子宮の脇に針を刺して、エコー画像を見ながら卵子を採っていく。羊水穿刺のような方法ですね。採ることは可能ですが、経腹に慣れている医師でないと少し難しいかもしれません。
エコーは間に水がなければきれいに映らないんですね。針を刺す位置を正確に決めるために、膀胱の中に尿や水を溜め、膀胱を貫通して採卵します。
経腹採卵は内臓に針を通すので、癒着の状況によっては出血などのリスクがゼロではありません。経験が豊富で、何かあったらすぐに開腹などの処置ができる施設を選んだほうがいいでしょう。
経腟も経腹も無理という場合は、昔、不妊治療が始まった当初に行われていた施術で、お腹に数カ所の小さな孔を開けて腹腔鏡下で採卵を行うという方法もあります。
このようにいろいろなやり方があるので「絶対ダメ」と諦めることはありません。どのようなケースでも、卵子が採れないということはまずないと思います。
子宮内膜症の手術をすると卵巣機能がさらに低下
──子宮内膜症の治療を優先するという選択肢はありますか。
不妊治療より子宮内膜症の治療を優先するかどうかはケースバイケースだと思います。40歳以上の場合、治療をしていると妊娠に関して時間切れになってしまうこともあります。
当院の場合、41歳の患者さんだったら、採卵を優先すると思いますね。チョコレート囊胞の手術で卵巣の一部を取ってしまうと、高齢ですでに落ちている卵巣の機能がさらに低下してしまいます。子宮内膜症がある卵巣から採った卵子の質はあまりよくないといわれていますが、年齢を考えたら手術はおすすめしないでしょう。
20代、30代でまだ年齢がお若く、卵巣機能にも問題がない方であれば、卵子の質を考えて子宮内膜症の治療を先にすることもあるかと思います。
採卵ができて、無事妊娠できたとしても、閉経まではチョコレート囊胞の経過観察は必要です。1000人に1人くらいの割合で卵巣がんに移行することがあるので、婦人科検診は継続を。
採卵にトライしても卵子を採ることができないのはおつらいと思います。数回実施しても針が刺せない困難なケースだったら、子宮内膜症治療と不妊治療、両方実施している経験豊富な施設で相談されてみてはいかがでしょうか。
ご年齢の割にAMH値が3.24 ng / mlと高く、残っている卵子の数に関しては希望をもてますが、卵子の質は年齢が高くなるにつれて低下していきます。早めに治療法を決めて進めていただきたいですね。
- 先生から
- 年齢を考えれば採卵を先に。
経腹、腹腔鏡下による施術など、採卵法はいろいろあります
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.45 2020 Spring
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