【Q&A】顕微受精前の検査について-浅田先生
専門医Q&A 不妊治療
相談者:いくちゃんさん(37歳)
夫40、妻37歳です。
AIH6回実施するも妊娠に至らず、顕微受精へのステップアップを考えています。(現在通っているクリニックは顕微のみ)顕微受精実施前に不妊不育の原因となる要素はなるべく少なくしておきたいと思っているのですが、実施しておいた方が良い検査はありますか?
調べると下記の様な検査があるのですが、どれを実施すべきか悩んでいます。
子宮鏡検査
子宮内フローラ検査 ERA検査
子宮内膜炎検査
子宮収縮検査
不育症検査
尚、昨年6月に子宮内膜ポリープ切除しています。卵管造影検査も実施済みです。
夫については特に問題無しと言われています。
浅田先生からの回答
私からすると、いずれもあまり有効な検査ではないと思われます。
ひとつひとつ見解を述べさせていただきます。
子宮鏡検査:
内膜ポリープや粘膜下筋腫などがある場合、子宮鏡で見て処置することがありますが、通常、超音波できちんと見ていればこれらの異常はわかります。いくちゃんさんは子宮内膜ポリープを切除されているので、子宮鏡が必要になった際に検査をすればよいと思います。
子宮内フローラ検査:
以前は子宮の中は無菌だと言われていましたが、現在では、数は極めて少ないですが菌がいるのではないかと言われています。昔は子宮の中の菌を培養してもうまく培養できないため無菌だと言われていたのが、現在は一部の菌のDNAやRNAの断片から、ある程度菌の存在を推察できるようになったものです。ただ、そのフローラは腸内フローラと似ていると言われており、まだまだ医学的、治療的な意味合いが揃っていないというのが現状です。
ERA:
子宮内膜の受容能検査とされており、着床の窓(implantation window)が早いのか遅いのかを見る検査として数年前に脚光を浴びました。ただ現在では、日本以外ではほとんど実施されていません。同一の患者さんでも、実施する度に結果が異なることがある等の理由からです。そもそも子宮内膜の受容時期は黄体ホルモンの投与時期でほとんど決まり、凍結融解胚移植のプロトコルによって早いのか遅いのかが分かるくらいです。それで妊娠率が上がるという知見は得られていません。
子宮内膜炎検査:
子宮鏡検査でもそうですが、子宮内膜炎のなかで慢性子宮内膜炎というのが一時取り沙汰されました。組織診断をして形質細胞の有無により慢性子宮内膜炎を診断するという概念が提唱されましたが、その後あまりデータは発表されていません。一部の興味を持ったドクターが熱心に行っているくらいで、国際学会等で話題になっている様子はありません。
子宮収縮検査:
こちらの検査については、何を指しているのかが分かりません。
不育症検査:
妊娠しても流産を繰り返す人について、子宮の状態が悪いために流産すると言われた時期もありますが、私は、流産の主な原因は染色体異常であり、卵が上手く育たないために起こるものだと考えています。つまり、妊娠判定よりも前に成長が止まれば“妊娠していない”、判定後に成長が止まれば“流産”となり、妊娠の延長線上の問題だと捉えています。
不育症は、ごく稀な特殊体質の人以外は検査をする意味がありません。それよりも、体外受精・顕微授精においては、採卵当たりの受精卵の数を増やすことが最も妊娠に繋がり、きちんとした体外受精を行うことが検査よりも大切だと考えています。
着床に関する検査は、現在の状況では、お金をかかるだけの意義が無いと思われます。当院では全胚凍結していますが、着床の条件は子宮内膜の変化で変わり、これに主に影響を与えているのが黄体ホルモンです。ですから着床の条件を考えると、新鮮胚移植よりも凍結胚移植にした方が良いというのが一番に言えることです。上述した検査で着床率が上がるかどうかは分かっておらず、実際に結果が出ているとは言えません。
子宮の多くの検査は、着床の本質からずれているのではないかと私は思います。
子宮外妊娠の場合、全く子宮内膜が無いところでも受精卵は成長することができ、このことは内膜の条件で着床が決まるわけではないことを証明していると考えます。また、代理出産では、妊娠率は代理母の子宮の年齢ではなく受精卵の年齢に沿ったものになることが分かっており、だからこそ代理出産が可能になっています。ですから、子宮側の免疫細胞の作用で様々な不具合が起き流産する、という理論自体が間違ったものといえます。
最終的には、信頼できる施設で適切な体外受精を受けることが一番という結論になります。エビデンスがはっきりしない検査に、無駄なお金をかけることが無いようにしていただきたいと思います。イギリスの国営放送であるBBCは、“中高年女性が、妊娠率を上げる効果のないものに多くのお金を払わされ、犠牲になっている”というニュースを流したことがあります。日本の現状においても。同様のことが危惧されます。商業的な検査は、本質を見据えたうえで受ける価値があるかどうかを判断すべきで、あくまでも本質の治療をしっかり行っていくことが大切だと考えます。