妊活セミナーレポート|病態によっては「手術」も妊娠率を上げる重要な選択肢に
コラム 不妊治療
3/14行われたジネコ 妊活セミナーより
不妊治療は施設によって、そのやり方が異なる場合があると思いますが、クリニック選びのご参考に、当院の治療方針についてお話ししたいと思います。
自然に近い方法での妊娠を目指す
当院では、以下のようになるべく自然に近い方法で患者様に妊娠を目指していただければ、というのが基本的な考えとしてあります。
北村誠司:Assistrd Reproductive Technology(私の治療法とポイントアドバイス)より
自然に近い方法での妊娠
1 35歳未満、不妊期間1年未満なら、数ヵ月様子見る場合も。
2 一般不妊検査
異常なし➜4周期 タイミング指導
結果出なければ➜catch-up障害を疑いstep-up(腹腔鏡orIVF)
3 体外受精では、出来るだけ媒精を目指す。(当院の受精率:媒精vs.ICSI=74%vs.78%)
4 初回の移植は、初期胚を勧めている。(胚盤胞:1卵性多胎の確率UP(自然妊娠の4倍)、血液キメラ)
検査を行って異常がなければ、4周期程度タイミング指導を。フーナー検査や精子に異常がある場合は人工授精を4~5周期。それで結果が出なかったらステップアップをご提案する。そうはいってもすぐに体外受精ではなく、腹腔鏡をおすすめする場合もあります。
35歳未満で比較的お若い方、不妊歴が数ヵ月くらいということであれば、さらに数ヵ月ほど様子を見ることもあります。
仮に体外受精をするにしても、できるだけ通常に近い媒精を目指す。当院の受精率は体外受精でも顕微授精でも7~8割程度と、2つの方法にそれほど違いはありません。
新鮮胚移植の重視
移植に関してはまず初期胚移植をおすすめして、うまくいかなかったら胚盤胞で、という自然に近い形で行っています。日本でも海外でも今は、凍結してある受精卵を解凍して戻す、いわゆる融解胚移植というのが主流になっていますが、なかには新鮮な受精卵でしか妊娠できないという方もいらっしゃるので、すぐに凍結してしまうのではなく、新鮮胚移植も重視しています。
卵管重視
卵管がきちんと通っていないと自然妊娠が難しいこともあるので、そういった場合には腹腔鏡の手術をしていただいて卵管の口を開き、自然妊娠を目指します。とても腫れてしまっている場合には卵管を切除する。炎症性のお水が溜まってしまうとそれが子宮内、果ては膣の所まで来る方も。そういったことで妊娠しづらくなるケースもあるので、卵管の手術という選択肢も考えています。
また、卵管が詰まっている場合はFTカテーテルを使い、風船を膨らませる要領で通すという治療も。これは本院の荻窪病院で実施しています。
さらに、子宮鏡を用いた初期胚の卵管内胚移植(h-TEST)も行っています。腹腔鏡ではないので体への負担が少なく、日帰りでの治療が可能です。
内視鏡下手術別の妊娠率
手術効果の重視
手術効果については、本院の荻窪病院で内視鏡の手術を受けていただいた116名の方々(平成21年1月~平成23年12月)を対象にして検討してみました。そうしましたところ、腹腔鏡で子宮筋腫を取られた方の術後の妊娠率が6割もあったんですね。チョコレートのう腫の方も6割近く。子宮内膜ポリープの方では4割以上と悪くない成績をあげています。こういった決して小さくない効果がありますので、病態によっては手術も妊娠への前進として前向きに考えていただきたいと思います。
「寄り添う看護体制」という理念
当院の理念の1つとして、カウンセリングの充実があります。不妊カウンセラー(臨床心理士)がご相談にのり、治療の節目で心のコンディションのチェックができるような体制を整えています。外来の看護スタッフにも不妊カウンセラーの資格を持つ者がおりますので、治療に際しての不安などを診察時に気軽にご相談していただくこともできます。
また、当院では年に2~3回程度「虹サロン」いう催しをやっています。普段、白衣を着ている医師やスタッフを前にすると、どうしても身構えてしまう。そういった敷居を低くするために交流の場を設けているんですね。あとは、治療の説明や冷え解消の体操をみんなで行ったり、体に良い食べ物や飲み物を試していただける場にもなっています。
AMHの重視
当院ではAMH(抗ミュラー管ホルモン)も重視しています。AMHは、女性の卵巣における胞状卵胞から分泌されるホルモンだと考えられています。卵巣の卵のつくりやすさを指し示す従来のFSH値と比べて、生理周期に左右されることがほとんどないので、今、卵巣予備能力の目安として注目されています。
体外受精を受ける患者様だけではなく、卵巣の機能が非常に活発な方、著しく弱くなっているのではないかという方に測定をして、治療方針を立てる目安にしています。
学会の中では、卵巣にある卵の在庫と認識されていますが、AMHが0だと妊娠ができないのかというと、そんなことはありません。AMH値が低くても毎月排卵している方はたくさんいらっしゃいます。在庫といっていますが、それはだいたい4ヵ月から6ヵ月くらいに卵をつくれるような在庫と考えていただくといいかと思います。
これは当院のデータですが、縦軸がAMHで、横軸は女性の年齢。やはり年齢が高くなるに従ってAMH値は下がってくるので、妊娠を考えた場合、できる範囲で選択肢が多い時期に治療できるといいのではないかと患者様にもお話ししています。AMHが非常に高い場合には卵巣が腫れたりすることが考えられますので、クロミフェンを使いつつ、HMG注射をプラスしていく中間の刺激法をおすすめすることが多いですね。AMHがほどよく高い場合にはアンタゴニスト周期やロング法、ショート法など。AMHが低い場合にはやはり、低刺激のやり方を進めていくことが中心となっております。
子宮内膜の重視
最後に、当院では子宮内膜も重視した診療を行っています。子宮の内膜が厚くなりにくい、薄い状態だと、着床率や妊娠率が下がるというのはかなりはっきりしているんですね。
子宮内膜が薄くなる理由は3つあります。
1つは、内膜の掻爬手術を受けたことがあると薄くなるリスクは少し上がってしまうんですね。掻爬は、妊娠の初期段階で流産してしまった時に子宮内の妊娠組織を手術で取り除いてあげるものです。その時に、中を掻き出す器械が内膜をつくる基底層という所を傷つけてしまうことがあるんですね。そうすると術後、内膜が厚くなりにくくなってしまうというケースがあります。あとは年齢が上がってくるとか、生まれつきの方もいる。
では、内膜が厚くならない場合、どうしたらいいのでしょうか。
一般的にもよく使われていると思うのですが、融解胚移植をする際にホルモン補充療法といって、ホルモン剤を使って人工的に内膜を厚くしていくようにします。こうすると、内膜が厚くなることが期待できます。
それでも厚くならない、効果がないという場合は、ビタミン剤を使います。ビタミン剤には抗酸化作用があり、その作用によって血流が改善されることが期待出来ます。3mm、4mmと非常に薄い内膜の方でも、数ヵ月間ビタミン剤を服用して妊娠に至るケースもあります。
あとは2年くらい前からペントキシフィリン療法を行っていますが、これは日本で売られている薬ではないので、少しハードルが高いかもしれません。脳外科などで血流を改善するという目的で使われているもので、効果が見られるケースもあります。
子宮内膜が薄くても、こうしたいくつかの方法が対策としてあるということをお伝えできればと思います。