抗精子抗体は体外で妊娠率が高いと聞いたのに陰性続きで不安です
コラム 不妊治療
抗精子抗体は体外で妊娠率が高いと聞いたのに陰性続きで不安です
福田 勝 先生(福田ウイメンズクリニック)
相談者:アヤさん(34歳)
胚移植3回目陰性
不妊治療を始めて3年経ちます。不妊原因はPCOSと抗精子抗体です。初めての採卵はIVMで採卵数5個、そのうち4個受精しました。しかしあまり質の良い卵子ではなかったため、胚盤胞まで育てず新鮮胚移植しましたが陰性。再度採卵をすすめられ、アンタゴニスト法で10個採卵、そのうちの4つが胚盤胞まで育ちました。1周期あけて凍結胚盤胞3ABをアシステッドハッチングして移植しましたが陰性。その翌周期に移植前のレーザー治療をして二段階胚移植しましたが陰性。次回は1周期お休みして凍結胚盤胞4BBと4BCを2個移植しようと考えています。抗精子抗体があると体外受精で妊娠しやすいと聞いていたので、陰性続きでうまくいくか不安です。
抗精子抗体陽性の人は体外受精で妊娠しやすいのでしょうか。
抗精子抗体は腟内に射精された精子を異物と判断してつくられる抗体で、その抗体ができると精子を異物とみなして攻撃してしまい、卵子と精子が出会うことができず受精もできません。抗精子抗体が比較的少ない場合は人工授精によって妊娠できる可能性はありますが、抗体が多い場合は体外受精、顕微授精が選択されます。これらの方法では体外で受精を行ってから受精卵を子宮に戻すため、抗精子抗体の影響を受けなくてすみます。
抗精子抗体があると体外受精で妊娠しやすいと聞いたとのことですが、特にそういったことはありません。ただ受精卵を直接子宮に戻すことで、抗精子抗体陽性という不妊の原因を除外できることを考えると、ほかに不妊になるような問題がなければ妊娠しやすいともいえます。
IVMやアンタゴニスト法での採卵についてはいかがでしょうか。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の場合、卵巣刺激により卵巣過剰刺激症候群(OHSS)になるリスクが高くなるため、特に注意が必要です。
アヤさんは初回にIVMで採卵されたとのことです。IVMとは未成熟卵を採卵して体外で培養する方法で、OHSSを回避することができます。しかし、残念ながら結果が出なかったとのことですね。
次に行ったアンタゴニスト法は高刺激ですが、OHSSにもならず胚盤胞まで達して凍結できたことはよかったと思います。しかし、グレードが一つは3ABでまずまずですが、4BC、4BBの二つは良好胚とはいえません。なるべく卵子の質を上げるような卵巣刺激方法を考える必要があると思います。
移植の方法や今後の治療について、アドバイスをお願いします。
凍結胚盤胞を移植する際、アシステッドハッチングを行っていますが、これは凍結により受精卵の透明帯が硬くなることが予想されるためレーザーで切り込みを入れたり薄くしたりする技術で、一般的に行われている方法です。
移植前のレーザー治療というのは、おそらくおなかの上から低周波をあてて血行を良くしようというもの、二段階胚移植は先に一つ胚を戻すことで子宮の中が受精卵を受け入れやすい環境になるという考えで行われるものです。これらは補助的療法としては試してみる価値がありますが、私はまずは胚の質を上げていくことが重要だと思います。
質の良い卵子を採るためには、最適な卵巣刺激法を選択することが重要になります。OHSSリスクを軽減させることを考慮し、まずは高刺激ではなく、排卵誘発剤(飲み薬)を基礎にhMGを隔日に追加するような中刺激の方法にしてみるなど、担当の先生とよく相談して考えていただいたらいいのではないかと思います。そして凍結胚盤胞をアシステッドハッチングを行ってから移植することを続けられたら、良い結果が得られるのではないでしょうか。
福田先生より まとめ
●抗精子抗体陽性だから体外受精で妊娠しやすいということはありません。
●最適な卵巣刺激法で質の良い卵子を採ることが重要です。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.34 2017 Summer
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