胎児検査・診断専門クリニックの役割とは?
2017/7/19 中村 靖 先生(FMC東京クリニック)
胎児の首のうしろの皮下組織の厚みで染色体異常の可能性を予測
当院で診察・検査を望む患者さんには、ご本人や親族、最初に生まれたお子さんに遺伝的疾患があり、「次に生まれてくる子どもにも病気が出るのではないか」という相談で来られるケースもあるのですが、それよりも圧倒的に多いのが、ダウン症候群など胎児の染色体異常についての心配です。
胎児の染色体異常の可能性を調べる検査の1つにNT計測というものがあります。これは1990年代にイギリスの医師が報告した方法で、胎児の頚部を超音波で調べるもの。妊娠11週から13週の胎児の首の後ろの皮下組織の厚みを計測すると、その厚さに応じて染色体異常の可能性が高まることが知られています。
最初の報告から25年ほど経ち、欧米を中心に今や世界的に行われている検査ですが、日本では出生前検査の普及に反対する声を反映した厚生科学審議会からの見解もあって、ほとんど普及することなく、教育・研修も行われてきませんでした。
最初の評価に疑問と不安を抱いて来院する人も
本来、NTの計測には決められた方法があり、その基準に基づいて正確に測る必要があるのですが、正確に計測するにはそれなりの時間と技術を要します。しかし、超音波診断装置はどこの産科診療施設にもあり、胎児頚部後方の厚みは見ることができるので、正確ではないながらも厚みが目立つと判断されることは通常の妊婦健診の中でも十分にありえます。
「むくみが目立つから、赤ちゃんに何か障害が起こるに違いない」といわれて心配になり、当院に相談に来る方は多くいらっしゃいます。
残念ながら忙しい産科診療の中で、時間をかけてデータに基づいた説明をしてくれることはあまりなく、感覚的に心配が強くなる説明になってしまうことも多々あるため、なかには、妊娠の継続に関して絶望的な気持ちになってしまう人もいるかもしれません。
NT計測は病気を診断するものではなく、一時的な現象をみているものです。きちんと評価すれば、必ずしも染色体異常が出るというわけではなく、健康なお子さんが生まれる可能性が高いというケースもあります。
知りたい人に正しい知識を提供することが必要
当院は「遺伝カウンセリング」と「胎児検査・診断」の専門施設ですが、このように一般施設での評価や診断に疑問を持った妊婦さんの受け皿としての役割も担っています。
妊婦さんにとって「異常があるようだが何が原因なのかわからない」「どこで聞いたらいいかわからない」「高齢だったら異常が出るの? 出ないの?」など、「詳しいことがわからない」のが一番不安なことなのではないでしょうか。
経験豊富な医師や遺伝カウンセラーほかスタッフが正しい情報を提供し、その方にとって必要な検査を受けることができて、結果のその先はきちんと対処が可能な施設にリレーできる。これが、検査・診断ができるクリニックの責任です。将来的には全国に高い水準の検査や診断が受けられる拠点を増やし、妊婦健診の流れの中で、本人の希望に応じて出生前診断を専門施設で受けられるようになるなど、もっとポジティブな形で妊婦さんや家族の不安を解消できる体制づくりが必要だと思っています。