40代の卵巣にロング法は危険 !?次の誘発法で悩んでいます
中村 嘉宏 先生(なかむらレディースクリニック)
相談者:KiKiさん(41歳)からの投稿
「40代に有効な誘発法は?」
これまでにAIHで稽留流産、化学流産を数回経験。半年前にIVFデビューしました。その時の検査でAMHは21、FSHも6前後、ほかの検査でも特に問題ないことから、当初医師からロング法を提案されました。しかし、ロング法は年齢から考えて若干の疑問を感じ、医師と相談のうえ、アンタゴニスト法で9個採卵。顕微授精で6個の受精卵ができ、初移植(新鮮8分割)で陽性→化学流産、その後2回凍結胚盤胞を移植しましたが、今日の判定で残念な結果となりました。結果、移植に至った胚は3個だけ。現在、凍結胚はもう残っていないため、また採卵から始めることになるのですが、誘発法で悩んでいます。
数が採れても結果がゼロだったアンタゴニスト法に再度挑戦するか、医師のすすめるロング法にするか…しかし、40代の卵巣がロング法に耐えられるか心配です。クロミッド®などの低刺激も視野に入れていますが、排卵の抑制ができないため採卵前に排卵してしまうというリスクが不安です。誘発法によって卵子の質に大きく差が出るとも聞きます。
初採卵で新鮮胚移植に至るまでにかかった費用も70万越え…。治療費のやりくりを考えると何度も挑戦というわけにもいかず、頭を抱える毎日です。
誘発法選択の指標はAMHとFSHの数値
今後の誘発法で悩んでいるとのことですが、担当医がすすめるロング法を選択する場合、卵巣予備能が十分にあることが前提となります。その指標になるのがAMHとFSHです。KiKiさんのAMHは21、FSHは6前後とのことですが、ここでのAMHの単位はおそらくpMだと思います。現在、AMHの数値にはng/mlを採用していますので換算すると2・94ng/mlですね。40代としてはとてもいい数値だと思います。FSHの値もいいので、排卵誘発にはよく反応してくれる状態ではないでしょうか。
現に、アンタゴニスト法で9個採卵できているとのことですから、反応性はいいと思います。6個は顕微授精までいってその半分が移植できているというのも、決して悪い成績ではありません。
8分割の新鮮胚移植で化学流産したとのことですので、少なくとも着床はしているわけです。つまり、子宮の中で胚盤胞になっています。また、その他の2個も胚盤胞で凍結できているとのことですから卵子の質も通常よりいいように思います。40歳になれば胚盤胞まで到達する率は30%くらいです。
切り替えにスプレキュア®を用いたアンタゴニスト法なら副作用はほとんどない
以上のようなことを考えると、KiKiさんの場合はロング法でもかまわないと思います。「40代の卵巣がロング法に耐えられるか心配」とあるので、ロング法が卵巣機能を低下させるなど悪影響があると考えておられるのでしょうか。そうであれば、そんなに心配する必要はないと思います。高齢の卵巣だから耐えられないということはありません。卵巣の反応性が良いため、卵巣過剰刺激症候群の可能性はありますが、排卵誘発剤を大量に投与しない限り、発生も抑えられると思います。
アンタゴニスト法で結果が出なかったのですが、アンタゴニスト法にもいろいろなやり方があります。当院では卵胞が成熟した後、HCGを用いずにスプレキュア®というGnRHアゴニストのスプレーを用いて切り替え(トリガー)をしています。スプレキュア®は脳下垂体に作用して自然なLHサージを起こして卵子を成熟させます。自然なLHはHCGより半減期が短いため、卵巣への刺激が少なく副作用が起こりにくくなります。多嚢胞性卵巣などで卵胞が多数発育する場合でも卵巣過剰刺激症候群はかなり防げます。
低刺激法をチョイスするなら専門のクリニックへ排卵リスクも経済面も安心
クロミッド®などの低刺激法も視野に入れているとのことですが、当院でのファーストチョイスは低刺激法です。KiKiさんはアンタゴニスト法で9個採卵できていますから、低刺激法でも4~5個くらいの採卵は十分に期待できると思います。
低刺激法は体内で自然に分泌されるホルモンを利用する方法ですから、副作用はまずありませんし、刺激周期特有の体のだるさのようなものもありません。また、採卵前の排卵のリスクを心配されていますが、低刺激法を専門的に行っている施設であれば問題ないと思います。当院では日曜、祝日も診察を行い、なおかつ院内でエストラジオールやLHを30分程度で測定できますので十分な卵胞成熟のモニタリングが可能です。そのため、採卵時の排卵率はさほど高くなく、あっても1%以内です。なにより薬剤の量が少なくて済み、経済的という安心感もあります。
40代でも粘り強い治療で結果は期待できる
KiKiさんは卵巣予備能がまだまだ十分にありますので、誘発法にはいろいろな選択肢があります。逆に30代でも卵巣予備能が低下していれば、刺激周期を行っても卵子がたくさん採れないことも多く、選択肢は限られてきます。誘発法によって卵子の質に影響があるかどうかという点は、ある程度やってみないとわからないところはありますが、方法を変えてもそんなに卵子の質に影響が出るわけではないと思います。方法よりも切り替えのタイミングのほうが大切だと思います。切り替えのタイミングには超音波だけでなくホルモンの測定と経験に基づいた勘も大切になります。そのため、できれば、日曜日、祝日も外来をしていて、院内でいつでもホルモン測定ができるクリニックが理想です。ただ、やはり40歳を過ぎますと、移植当たりの妊娠率が必ずしも高いわけではないのは事実です。1回当たりの妊娠率は10~15%くらい、流産も当然ありますから、赤ちゃんまで到達するのは9~10%くらいです。
当院のデータでは、40歳から治療を始められた方で、体外受精の累積での妊娠率つまり最終的に妊娠される方は40%以上です。つまり、40歳になれば1回目の治療で妊娠する可能性は低くはなりますが、粘り強く治療を続けることで半分近くの妊娠率が期待できるのです。
人工授精で稽留流産、化学流産を経験されているので、一度は不育症の検査をしてもいいかもしれません。凝固系異常や抗リン脂質抗体症候群などがある場合は、アスピリンやヘパリン、あるいはステロイドを使った治療法で対処できる場合があります。まだまだ悲観するほどの状態ではありません。副作用や治療費のことを心配されるのであれば、比較的安価な低刺激法のことを含め、専門クリニックでご相談されてもいいのではないでしょうか。
排卵誘発法のファーストチョイスは?
40代でも卵巣予備能が十分にあればいろいろな選択肢があります。専門クリニックであれば、低刺激法もいい方法です。
低刺激法は自然なホルモンを利用した排卵誘発法で、体にやさしく、卵巣が反応しすぎるといった副作用がまず起こりません。また、注射の量を加減することである程度の数の卵子を採ることも可能です。特に、初めての誘発であれば、卵巣がどう反応するかを見極めながら調整できるという意味でもおすすめです。何より注射の量が少なくて済み、経済的。通院回数も多くないため、仕事や日常と治療との両立もスムーズです。
GnRHアゴニスト製剤とは?
よく使われている製品例:スプレキュア®。
●どの誘発方法で使われるの?
低刺激法をはじめアンタゴニスト法でも切り替え(トリガー)に使用します。点鼻薬(鼻にするスプレー)なので、夜間に自分でできます
●副作用について
アンタゴニスト法で卵巣を強めに刺激した場合でも、最後の切り替えでスプレキュア®を使用すると、HCGより卵巣への刺激が少ないため、卵巣過剰刺激症候群はまず起こりません。
中村先生より まとめ
AMHとFSHが基準値内であれば誘発法はまだ十分に選択肢があります
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.36 2017 Winter
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