【医師監修】着床不全って?その原因は?
コラム 不妊治療
着床障害って?
良好形態胚(見た目の状態がよい胚)の移植を複数回行っても妊娠しない状態のことを着床障害と呼びます。
着床の過程はとても複雑であるため、着床障害の原因をはっきりさせることはとても困難です。
着床障害は、胚に原因がある場合・子宮側に原因がある場合・両方に原因がある場合が考えられます。
胚側の原因は?
胚由来の原因は染色体異常がほとんどですが、染色体の異常に対して治療を行うことはできません。
技術的には、体外受精を行って得られた胚に対して、PGS/PGD等の遺伝子的検査を行うことで、染色体の数の異常に対して、ある程度正常な胚を選別することは可能と考えられます。
しかし、全ての異常を正確に検知できるわけではなく、結果によっては非常に診断が難しく医師によっても判断が異なる場合があるなど、今後も模索が必要な技術です。
現在日本では、着床不全や初期流産を繰り返す患者さんに対して、胚の染色体の数に異常のない胚を選んで移植する「着床前スクリーニング」の臨床研究が行われています。
子宮側の原因は?
子宮側の原因には、子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、卵管水腫、子宮内腔の癒着などの器質的疾患、ホルモン異常(高プロラクチン血症、甲状腺機能異常など)、自己免疫抗体異常、抗リン脂質抗体症候群などの凝固能異常、子宮内膜受容能の異常(インプランテーションウィンドウ”着床の窓”のずれ)などが考えられます。
検査は、子宮鏡検査や血液検査などを行いますが、検査を行っても検査上は特に問題がなく、原因が判らない場合があります。
原因不明の着床障害の方のうち、通常の方法で胚と子宮内膜の日にちを合わせると、移植するべき日がズレているために、妊娠できない方がいることが最近わかってきました。
子宮鏡検査
子宮鏡検査とは、子宮の中に直径3mm程度の内視鏡を挿入し、子宮内腔を観察する検査です。痛みはほとんどないため、麻酔をせずに検査が可能です。
この検査は主に、超音波検査で子宮内病変が疑われた場合や不正性器出血の原因精査のために行います。不妊症領域においても、子宮内病変が不妊症や不育症の原因になっている場合があります。
当クリニックにおいても、超音波検査などで子宮内病変が疑われる場合や、体外受精胚移植に良好胚を複数回移植しても妊娠しない場合などに、子宮鏡検査を行っています。
子宮鏡検査を受けることで、超音波ではわからないようなポリープや子宮腔内の癒着等が見つかることがあります。子宮内膜ポリープは、多くの場合、検査と同時に切除や処置が可能ですが、多発性のポリープが見つかった場合や粘膜下筋腫が疑われる場合は、別の日に処置を計画したり、高次医療機関に紹介したりすることがあります。
ERA(子宮内膜着床能検査)とは
ERA(: Endometrial Receptivity Analysis)は移植する時期の子宮内膜組織を採取し、遺伝子発現を解析することで採取した日の着床能を評価する検査です。
胚が子宮に着床できる時期のことをインプランテーションウィンドウ(着床の窓)と呼びます。
インプランテーションウィンドウの時期は一定であると考えられ、従来の移植が行われていましたが、インプランテーションウィンドウは人によって若干のズレがあることが分かってきています。
良好胚盤胞を複数回移植しても着床が見られない方のうち、25%にインプランテーションウィンドウのずれが判明したと報告されています。
当クリニックでは、複数回良好胚を移植したにも関わらず着床しない方、あるいは移植できる胚が希少な方は、適切な移植時期を調べてから移植を行うことをお勧めしています。
検査方法
ホルモン補充周期もしくは自然周期のどちらかの方法で行います。移植をする周期と同様の方法で子宮内膜を整え、移植予定日の所定の時間にお越しいただき、子宮内膜組織を採取します。また、子宮内膜組織を採取する検査周期に移植はできません。
ホルモン補充周期は黄体ホルモン剤を使用開始から5日目、自然周期は排卵誘発の点鼻薬を用いてから7日目となっています。
子宮内膜組織の採取・結果、気になる費用は?
ホルモン補充周期、自然周期共に所定の日に、組織の採取を行います。
子宮頚部からごく細いカニューレ(チューブ状の器具)を子宮内へ挿入し、子宮内膜組織を採取します。
この検査は侵襲性の最も低い手法で行なわれますが、検査中に若干の痛みを伴う場合や、検査後に不快感や出血が見られる可能性があります。ごく稀に、子宮内感染症・子宮穿孔の可能性も考えられます。
稀に検体不良や、有効でない検査結果のため、再度検査が必要になる場合があります。検体不良の場合は、検査料金を返金いたします。
採取された内膜組織はアイジェノミクス社に送られ、約2~3週間後に結果が返送されます。
また、結果がNon-Receptive(非受容期)であった場合、より正確な診断のために複数回の検査を勧められる可能性があります。
2回目以降の検査では、1回目と同様に子宮内膜を整え、子宮内膜組織の採取日を変更して検査を行い、正確な着床時期を探ります。
なかむらレディースクリニックにおける費用は以下の通りです。
・当クリニックでART治療中の方
検査1回目 150,000円
検査2回目 120,000円
検査3回目 96,000円
・それ以外の方
検査1回目 250,000円
検査2回目 220,000円
検査3回目 190,000円
子宮内膜の調整が難しい方に対するアプローチ
子宮鏡検査やERAに問題がない方でも、子宮内膜が薄いと妊娠しにくくなります。
ホルモン補充-融解胚移植では、エストロゲンを使用し子宮内膜を育てて行きます。
当クリニックでは子宮内膜8mmを基準にしています、中には8mmまで内膜が発育しない場合もあります。
このような場合には、子宮に必要な栄養や酸素を子宮に届ける目的で、以下のような子宮血流を改善する薬を用います。
・トレンタール(ペントキシフィリン)
抹消動脈硬化症、脳の循環改善薬として使用されていました。毛細血管を拡張させる作用があり、子宮での血流改善につながると考えられます。
・バイアグラ(シルデナフィル)/シアリス(タダラフィル)
勃起不全の治療薬です。これらの薬も血管拡張作用があり、子宮血流を改善する効果が期待できます。シアリスのほうが長時間作用します。
・G-CSF
2011年、薄い子宮内膜に対して、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)を投与することで、子宮内膜の厚さが増し、妊娠率も改善されるとの報告がありました。
正常な分泌期の子宮内膜には多数の炎症系細胞が存在することから、 子宮内膜の厚さに関与するだけでなく、炎症性局所因子を介して子宮内膜の機能を向上させていると考えられます。 当クリニックでは子宮内膜の発育が不十分な方に、分泌期に入る前の時期に子宮内投与を行っています。
・2段階移植/SEET法
2段階移植では胚盤胞移植の2日前に初期胚を、SEET法では胚を培養した培養液を、子宮に戻す方法です。初めに戻した胚もしくは培養液が、子宮内の環境を向上させると考えられていますが、具体的に何が起こっているかはわかりません。何らかの液性因子が、GCSFと同様に、炎症性局所因子を誘導して働いているのかもしれません。
・スクラッチング(EM-SET)
胚移植前に細い器具を子宮内に挿入する方法です。軽い炎症を起こし、子宮内の炎症反応を引き起こし、効果がみられるのではないかと考えられています。