“ここちゆく”―― 妊活・子育てセラピストとして
コラム 不妊治療
不妊治療の末に授かった3歳の女の子の子育てをしながら、
現在は2人目妊娠を目標に不妊治療を再開中のえつこさん。
自身の経験を生かしたブログ発信やコミュニティづくりに奮闘する
えつこさんの笑顔の源を教えてもらいました。
※2019年5月24日発刊「女性のための健康生活マガジン jineko vol.42 2019 Summer」の記事です。
笑顔にたどり着くまでに一人で抱え込んでいた時期も
「不妊治療を経て母親になった妊活・子育てセラピスト平安えつこのブログ/北九州」を発信したり、妊活や子育てを頑張る女性のための「おはなし会」を主宰するなど、積極的に活動している平安えつこさん(39歳)。周囲の誰もが癒される、ぽかぽかと陽だまりのような優しい笑顔が印象的な女性です。
でも、不妊治療を受けていることを誰にも相談できずに苦しんだ時期や、妊娠や出産の報告をしてくれる友人に嫉妬したり、嫉妬する自分にまた落ち込んだり、と、心の中ではさまざまな葛藤があったそうです。
2011年に結婚したえつこさんとご主人の紀隆さん(39歳)が初めて出会ったのは23歳の頃。その時はお互いの友人と一緒にご飯を食べに行ったりするくらいだったそう。7年後、その友人二人の結婚をきっかけに再会。とにかく優しい紀隆さんの人柄に惹かれて付き合い始めるようになり、いつしかお互いになくてはならない存在に。結婚は自然な流れでした。
不妊原因がないからこそ、「なぜ?」と膨らむ不安
結婚から2年が経ち、「子どもが欲しいけど、できない」という不安と、なんとなく感じる「触れないほうがいいのかな」という身近な人たちの気遣い。
「年齢的に妊娠しにくくなっているとわかりつつ、現実を受け入れる勇気がなかったから、検査には行きたくなかったんです」
もともとネガティブな方向に考えがちなえつこさんに対して、紀隆さんは常にポジティブ思考。先に進めなくなっていた時に「俺に精子がないかもしれないから検査に行きたい!」と明るく言ってくれたことで病院に行くことを決心し、まずは婦人科クリニックで検査を受けることにしました。
検査結果は特に問題なしで、卵子の質が少し低いのは30歳を過ぎていたので年齢相応、紀隆さんの精子も正常。大きな理由はなくほっとした反面、「じゃあ、どうすればいいの?」と不安は大きくなっていきます。
そんな思いのまま始めた不妊治療。タイミング法を試してみましたが、どうしても機械的に感じてしまい、潜んでいたネガティブ思考が顔を出して精神的に限界に。半年経って通院をやめてしまいます。
「子どもは授かりものだっていうから、無理やりつくろうとするのはその子の意思じゃないし、それでできたとしてその子は幸せなんだろうか、とかいろいろ考えてしまったんです」
次に行ったのは、漢方を積極的に取り入れている産婦人科。少しでも自然な治療を求めて通い始めたのですが、やはり雰囲気や治療方針などに違和感を覚えて約半年後にはまた、自らの意思で通院をやめました。
本当に信頼できる病院との出会いがすべての始まり
2カ所のクリニックでの不妊治療を経て、心身ともに疲れ、「もう、いいかな」と治療する意欲もなくなっていたえつこさんが、再び前向きに治療できるようになったのは、紀隆さんの職場の先輩のアドバイスでした。
「とてもいい病院があるよって、常日頃から主人に言ってくれていたんです。でも、それを何度も私に言えば負担に思うと知っているので、さりげなく伝えてくれてはいたんですが…」
すぐには行く気になれなかったそうですが、35歳のある日ふと、「行ってもいいかな」という気持ちになり、その勢いで予約して病院へ向かいます。
それが、えつこさんにとって本当に信頼できる病院との出会いとなり、約1年の治療の末に念願の娘さんを授かることができたのですが、途中でやめてしまった2カ所とこの病院にはどんな違いがあったのでしょう。
違いの一つは、夜間診療が週2回あったこと。えつこさんは先生から直接話を聞きますが、紀隆さんはえつこさんからの又聞きになるため、今まではどうしても同じ歩幅で進めていないと感じていたそうです。でも、一緒に通院する回数が増えることで治療に対する距離が縮まり、今までのすれ違いも理解してくれるようになって「私がちゃんと言わないといけない」というストレスが減ったそうです。
そして、もう一つの大きな理由は、その病院の「人」。
「待合室に常駐していたサポートスタッフさんが、何でも話を聞いてくれるんです。雑談でも夫婦や仕事の愚痴でも、うまく引き出して、吐き出させてくれて。ずっと抱えていた思いを出せたことで、自分のすべてを認められるようになったんだと思います」
人工授精の当日にささいなことからご主人と喧嘩してしまった時、処置室へ向かいながらも大泣きしているえつこさんを元気づけるために、先生自らが院内BGMを変えてくれるという思いやりに接し、看護師さんには的確なタイミングでアドバイスしてもらえる安心感。
「気持ちの強い人なら効率よく治療できればOKかもしれないけど、私みたいなタイプには親身になって話を聞いてくれたり寄り添ってくれる人がいることがとても大きかったですね」
口に出して初めて知った理解と共感の大切さ
もちろん、人工授精でリセットした時にはすごく落ち込んだりはするけれど、それ以外は本人さえびっくりするほど通院や治療を楽しめるようになったのも、すべては「人」がキーワード。今までは一切口に出さなかった不妊治療のこと。子どもが欲しいのになかなかできない不安や悲しみ、焦り。すべてをさらけ出せるようになったことも「人」のおかげでした。
そんなえつこさんの周囲にも、さまざまな変化が訪れます。今までは気遣いや遠慮からその話題に触れなかった友人や母親が「治療はどんな感じ?」と気軽に聞いてくれるようになりました。そして、「実は私も不妊治療しているよ」「体外受精で子どもができたよ」と、今まで黙っていたことを「私も」と話してくれる人が増えたのです。
「話すことで気持ちを分かち合えるし、話を聞けば参考になることがたくさんあるって、ようやく知ったんです」
今まで話せなかった人にとって急に「話しましょう」は難しいもの。カードに込められたメッセージが心に溜めていた思いを吐き出せるきっかけになるようにと、おはなし会やイベントなどでえつこさんが実際に使用しているオラクルカード。
心地よく、笑顔で過ごせる妊活・子育てをめざして
出産や成長の報告が悪気なく綴られた年賀状が届き、本当は見たくないし落ち込むけれど、それを人には言いたくない。不妊治療は自然じゃないという周囲の誤解、何気ないひとことで頻発する夫婦喧嘩など、誰もが胸に秘めていた「妊活あるある」を共有できる場所があれば、同じように悩んでいる人の役に立てるかもしれない。それが原動力となったえつこさんの現在の活動は、「心地よさ」を感じる時間や場所を意識的にもつことがテーマ。ブログ発信やおはなし会をはじめ、日本の神様のオラクルカードを使ったカードリーディング、アロマとストレッチを融合させた耳ストレッチなどを通じて、一人ひとりの「心地よさ」を探すお手伝いをしたいと思っています。
えつこさんは今、2歳の女の子の子育てに奮闘しながら2人目の不妊治療に再チャレンジ中。前向きなパワーと笑顔にあふれたえつこさんと、そんな彼女を支えて日々前へと進ませてくれる紀隆さん。玄関先にさりげなく飾られた、緑の草原で撮影した親子3人の写真からにじみ出る温かさは、家族の次なるステージを予感させてくれました。
えつこさんのプロフィールに添えられた「ここちゆく」という言葉が表すのは、「気分に滞るものがなくなり、晴れ晴れとした気持ちになる」こと。ほっこりとした穏やかな雰囲気の彼女らしさを感じさせる素敵な言葉です。
●えつこさんのブログ
不妊治療を経て母親になった妊活・子育てセラピスト平安えつこのブログ/北九州
●https://ameblo.jp/nanaha410/
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.42 2019 Summer
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