妊娠中の食事と栄養(1)~マタニティ期何をどれだけ食べる?~
妊娠中の食事は、トラブルなく出産する体をつくるために、そしておなかにいる赤ちゃんの体をつくるためにとても大切。食材や栄養、食べ方など、気をつけるポイントを日々、妊産婦さんのための食事を作っている管理栄養士・国際薬膳師の岡本正子さんにお聞きしました。
妊娠をきっかけに食べるものを考える
妊娠すると、誰でも「健康な赤ちゃんを産みたい」「おなかの中の赤ちゃんのためにいい食事をしたい」という気持ちが芽生えると思います。今まで栄養のことはあまり気にせず、好きなものばかり食べていた人も、おなかの赤ちゃんのためには何を食べたらいいのかということを考えるようになります。そうすると、食べものに対して観察する力がついてきます。今まで何気なく食べていたものが、「これは本当にいいのかしら」と考えるようになるのですね。また情報を求めていると、知識もいろいろなところからたくさん入ってくるようになります。
そうやって得た知識と自分の中にある感覚の両方で、「食べるものはこれでいいのかな」と自分自身に問いかけをし、見極めていく。妊娠期は食べるものを見直す、いい機会だと思います。
バランスよく食べて貧血を予防する
今は貧血の女性がとても多いです。ダイエット志向がすごく強くて、厚労省が出している報告では、20代~30代の女性の20%くらいがBMI18.5以下の“痩せ”です。“痩せ”は、単純に言ってしまうと栄養不良の状態。体重が軽いということは、きちんと食べていないということなのです。
また、動物性のものはいけないと極端に考えている人がけっこう多いと思います。しかし、動物性のものを食べないと、ますます鉄分が不足します。鉄分には植物性と動物性がありますが、植物性の鉄分は体への吸収率が非常に低いのです。ひじきばかりを毎日食べても、貧血は改善されないですね。しかもひじきを毎日食べていたら飽きてしまう(笑)。
貧血があったら、動物性のものも取り入れながら、バランスよく食べることが大切です。
乾物やたくさんの野菜から必要な栄養を同時に摂取
カルシウムは妊娠中に積極的に摂りたい栄養素。赤ちゃんの骨や、筋肉をつくるためにも必要です。おすすめなのは高野豆腐や切り干し大根などの乾物類。これはカルシウムと鉄分が同時に摂れる、日本古来のすばらしい食品です。切り干し大根は、もとの大根には鉄分がほとんどないのですが、干すと栄養素がギュッと凝縮されるので、単位当たりの栄養価がとても高くなるのです。切り干し大根は本当に優等生です。また乾物類は水分量がほとんどないので、保存性が高くて便利です。調理してからでも冷凍できるので、出産前に切り干し大根やひじきの煮つけを作って冷凍しておくと、産後にそのまま解凍して食べることができます。
妊娠初期に葉酸を摂ったほうがいいといわれていますが、普通の食事をしていれば、葉酸不足にはなりません。しかしある研究では、葉酸不足の妊婦さんが多いという結果が出ています。葉酸とビタミンB12は赤血球の生成にも関わりがあるので、貧血予防のためにも両方とも摂ることが大事です。1日300gの野菜、そのうち100gを緑黄色野菜で摂れていれば、サプリメントに頼らなくても大丈夫です。300gは、ちょうど両手を広げてのるくらいの量。積極的に野菜を食べるようにしましょう。
同じものばかりを食べるとアレルギーの原因に
好きだから、または体にいいからと同じものばかりを食べ続けると、食物アレルギーが出やすくなります。特に今、日本では小麦アレルギーがものすごく増えていて、3大アレルゲンは卵、牛乳、小麦となっています。若い女性の食事診断をすると、パン、麺、パスタなど、こんなに食べているの、というくらい、小麦から作った食品が多いです。
また輸入された農産物にはポストハーベスト農薬が使われていることも多いので、安全性も心配です。小麦や、最近アレルギーが増えているフルーツは輸入ものがほとんど。やはり住んでいる土地でその季節に採れたものを食べるというのが体に合うし、安全でもあると思います。
摂りたい栄養素(1)カルシウム
カルシウムはおなかの赤ちゃんの骨や歯をつくる大事な成分。体内で生成することができないので、食物から摂取する必要があります。妊娠中は胎盤を通して、産後は母乳を通して赤ちゃんにいくので、積極的に摂りましょう。
★☆★ 枝豆ご飯 ★☆★
材料
● 米 2カップ
● 鮭中骨缶 1缶
● 枝豆 1/3袋
● 水菜 1株
作り方
1)米は洗って缶詰の汁気の分、水を減らし鮭を加えて炊く。枝豆は塩ゆでし、さやからはずす。水菜はよく洗い、みじん切りにする。
2)炊きあがったご飯に水菜と枝豆をさっくり混ぜる。
摂りたい栄養素(2)鉄
鉄は血液中で酸素を運ぶヘモグロビンをつくるために重要な栄養素。不足すると鉄欠乏性貧血になり、ひどくなると出産の際、微弱陣痛や大量出血を起こす危険も。特に妊娠後期は注意を。
★☆★ 高野豆腐の冷や奴風 ★☆★
材料
●だし 2カップ
●高野豆腐 4枚
●えのき 1パック
●しょうゆ、みりん 各大さじ2
●ねぎ 10㎝
●塩、ごま油 適宜
作り方
1)高野豆腐はさっと水にくぐらせ、だしに浸ける。十分にもどったら、10分ほどだしで煮て、冷ましておく。
2)えのきは石づきをとり、3㎝ほどに切って、みりんとしょうゆで汁気がなくなるまで煮る。
3)ねぎは小口切りにして、塩とごま油に漬け込む。
4)高野豆腐は4つに切って皿に盛り、(2)と(3)をこんもりのせる。
摂りたい栄養素(3)葉酸
葉酸は水溶性のビタミンB群の一つで、神経管閉鎖障害のリスクを低減させたり、貧血予防にも関わる成分。緑黄色野菜や豆類、海藻類に多く含まれています。体内で蓄積できないので毎日の食事に取り入れて。
★☆★ モロヘイヤとホタテのスープ ★☆★
材料
●だし 4カップ
●ホタテ 4個
●モロヘイヤ 1わ
●塩 小さじ1
●しょうゆ 大さじ1/2
作り方
1)モロヘイヤは葉をつんでゆでる。細かくたたく。
2)だしは調味料で味をととのえ、薄切りにしたホタテを入れ、ひと煮立ちさせる。(1)のモロヘイヤを入れて、混ぜる。
摂りたい栄養素(4)ビタミンB12
葉酸とともに赤血球の生成に関わり、貧血を予防。また胎児の脳や脊髄の発育にも必要な成分。動物性食品に多く含まれているため、菜食だと不足することも。バランスよく食べることが大切。
★☆★ さんまの焼き南蛮 ★☆★
材料
●さんま一夜干し 2尾
●だし 1/2カップ
●しょうゆ 小さじ1
●酢 大さじ3
●砂糖 大さじ1
●玉ねぎ 1/4個
●カラーピーマン 1/2個
●貝割れ菜 適宜
作り方
1)玉ねぎ、ピーマンはせん切りにする。さんまは頭をとり、4つに切る。グリルで焼く。
2)鍋に、だし、しょうゆ、砂糖、酢を合わせ、煮立たたせる。さんまをたれに漬け込み、玉ねぎ、ピーマンを合わせて混ぜる。
3)皿にさんまと野菜を盛りつけ、貝割れ菜を散らす。
岡本 正子先生
管理栄養士、国際薬膳師。3人の子どもを育てながら40歳で栄養士の資格を取得。矢島助産院、さかもと助産所にて講習会や食事作りの仕事に携わるかたわら、地域で母と子に向けた講演や講習会活動を行う。著書に『自然なお産献立ブック』『妊娠&授乳中のごはん150』などがある。
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