長い生理不順と闘った20代、9回もの人工授精、くじけそうな日々。でも、絶対に命を諦めたくなかった。
早期から取り組んだ治療それでも結果が出なかった
明るい日差しが注ぐ真っ白なリビング。好きなおもちゃを広げ、元気いっぱいに遊ぶYくん(2歳)の姿。誰もが笑顔になるような温かな家族の風景。しかし、愛息Yくんがこの世に誕生するまで、Mさん(38歳)は5年もの間、不妊治療を続けてきました。
Mさんが社会人になってすぐ、慣れないハードワークのせいか生理不順が始まりました。まだ20代前半、生理がないほうがむしろラクだとしばらくは放っておいたそうですが、母親のすすめもあり近所の婦人科を訪れ、治療を始めました。ホルモンバランスを整える薬を飲み、それをつい忘れてやめてを繰り返すという20代を過ごしながら、なかなか生理不順は治る気配を見せてくれません。やがて、現在のご主人と30歳の時に結婚。すぐにでも子どもが欲しかったというMさんは、生理不順の治療で長く通院している婦人科の主治医と相談し、タイミング法から試すことに。
「検査の結果、排卵もしているし卵子も育っている。何も問題はないはずでした。タイミング法を2~3回試した後すぐに妊娠したんです」
結婚式からその妊娠まで2カ月もたたないという早さ、何もかも順調だと安心していたのに、ある日突然の流産ーー。
「当時のことはショックであまり記憶にありませんが、何をしていても涙があふれるだけでした。夫に対して、何か言ってよと思う半面、何を言われても子どもは戻ってこない、という冷静な気持ちもありました」
物静かなMさんご夫妻。この時もご主人は黙って見守り、慰めてくれました。流産の悲しみを引きずりつつも、時間は待ってくれないと気持ちを切り替え、またタイミング法を続けていきました。しかし、特に体に問題はないけれど、不妊の原因として考えられるのは脳のホルモンの指命がうまくいかない下垂体機能不全という状態は変わることはありません。
「そろそろ次のステップに」と主治医がすすめてくれたのはタイミング法でもなかなか授からず2年ほどの月日が経とうとしていた頃。そこから人工授精に取り組みました。
「当時は必死でしたがやはりつらくて…最初は薬だった排卵誘発剤が注射になり、しかも2日に1回自己注射を行うんです。職場でも気を遣うし、逆に気を遣われるのも重荷でした。『彼女は婦人科に行くから、早く帰るのは仕方ないね』と誰も責めていないのに、自分の中では追い詰められていた気分でした」。そして、人工授精はいつのまにか9回目を数えるまでに。「自分では比べようもなく、この数が多いとは思っていなかったんですが」とMさんは笑います。
何度チャレンジしても妊娠に繋がらない…メンタル的にも行き詰まっていたMさんに、主治医はさらなる高度医療をすすめてくれました。「私の病院ではもうこれ以上できない。でも大きなところに行けば可能性があるんだから」と、その声に背中を押され、長年お世話になった婦人科から、地元でも評判のいいKクリニックへ転院しました。
高度治療のため転院。なんと最初の治療で妊娠!
転院前に、Kクリニックが行う説明会に足を運んだMさんご夫婦。月に何度も行われているはずの説明会に自分たちを含め7~8組の夫婦がいる様子を見て「こんなに不妊に悩む人たちがいるんだ」「私だけじゃなかった」と驚きました。追い詰められ、視野が狭くなっていた自分に気がついたMさん。通院が始まってからも、朝受付をして終わるのが昼過ぎが当たり前という待合室の混雑ぶりに、心身ともに疲れながらも、頑張ろうという気力が出てきたそう。「これだけの女性たちが同じようにつらい治療を頑張っている。私は妊娠できる、この病院を信じよう」。Mさんの心の霧が晴れていくようでした。
きっとここで何か変わる!その前向きな気持ちのMさんに神様は最高のご褒美をくれました。なんと1度目の体外受精で妊娠したのです。
「2014年3月にKクリニックの説明会に行き、7月に胚移植を行い、妊娠しました。信じられなくて、嬉しい半面、あまりにスムーズに行き過ぎて怖い気持ちもありました」
最初の妊娠で流産した悲しい経験が、Mさんをより慎重にさせました。そして、この命、絶対守るという思いがMさんを強くしたのです。信頼のおける女性の上司にまず相談し、妊娠初期をしっかり過ごすために3週間の休暇を取得。妊娠を継続する薬を服用しながら安静に過ごすために必要な休暇でした。
「ちょこちょこ休んで業務を中断させるより一気に休んでしまうほうが勤務先にも迷惑がかからない。もう気を遣っている場合じゃないと開き直って、しっかり休んで過ごしました」
妊娠が判明してからも、Mさんご夫婦は「慎重に」というスタンスを崩しませんでした。初めての赤ちゃん、ずっと待っていた新しい命。いろんなものを買い、準備したいけれど安定期まですべて我慢したそうです。さらに、1カ月に1回しかない健診までの期間が「果てしなく長く」感じたそう。「お腹の中で無事なのか。もっと健診の間が短かったらいいのに」と不安で仕方なかったMさん。
「結婚してからの人生、不妊治療が私の生活の中心でした。だから主治医に『ついに卒業だね』と言っていただけたのが本当に嬉しくて…」
そして2015年春、ご主人立ち会いのもと、待望の男の子が誕生しました。「でも破水の時に水を飲んで産声が出せなくて…ここまで頑張ったのに!生きて! と産後のもうろうとした頭でそう思いました」とMさん。3分ほどで無事にオギャー! と元気な産声を聞き、大きな喜びに包まれました。
時間は待ってくれないからすぐに2人目に挑戦
出産後、大きな安堵とともにMさんは「2人目をつくるなら、一刻も早く治療に取り掛かりたい」という強い思いに駆られました。結局は産後1年たって、以前採卵した卵子を使って体外受精に挑戦するも、陰性に。諦めたくなくて、新たに採卵から挑戦しました。しかしこれも陰性。「一人いるんだから、次でできなければあきらめるしかないのかな」と最後の受精卵を使っての移植。その思いが通じたのか4回目で無事妊娠したのです。
諦めなくてよかった…、そう言って少し膨らんだお腹を愛おしそうに抱くMさん。現在、育児休業延長中で、今年の秋出産予定だそう。出産は2人目というのもあり、もう健診の期間が永遠のように感じることもないと笑うMさん。すでにママとしての余裕も経験も十分です。
「読者の旦那様にぜひ伝えたいことがあります。何があっても奥様を支えて、ということ。苦しい治療で心身ともに追い詰められる奥様を一人にしないでください。私の夫は出張期間中も時間を見つけてこまめに自宅まで帰ってきてくれました。どうぞ二人で乗り越えてください」
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn
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