体外受精の着床率を上げるためにできることって何?
コラム 不妊治療
体外受精の着床率を上げるためにできることって何?
【医師取材】体外受精で良好胚を移植しても妊娠しない、子宮・卵管因子などの原因も見当たらないのに着床しない。そんな時はどうすればいいの?浅田レディースクリニックの浅田義正先生にお聞きしました。
良好胚を移植しても妊娠しない。それは今や当たり前のこと!?
まず大前提として、良好な胚を移植すれば妊娠して当たり前というのは間違いです。日本ではまだ臨床応用が認められていませんが、欧米ではPGS(着床前スクリーニング)を行うと、良好な胚の中にも染色体異常がたくさんあるというのがわかってきています。
当院でもそうですが、受精卵を培養する際にはタイムラプスで観察しながら、いい受精卵を選んでいくわけですが、たとえば4倍体の胚などは、染色体のバランスがいいのか、普通の受精卵よりもきれいに完璧に発育します。比べたらそちらを選ぶのが当たり前の受精卵に、実は染色体の数が倍あったということもありますし、受精した時には2前核の正常受精に見えても、妊娠時には4倍体だったという胚もあります。要は、見た目だけでは本当に良好な胚を選びきれないということです。
重要なのは黄体ホルモン。その数値で移植時期を合わせる
そのようななかで、着床の条件をよくして、着床率を上げるにはどうしたらいいかといえば、一つには、移植の時期をきちんと合わせることが重要です。
体外受精で卵巣を刺激して、比較的卵子が採れたのになかなか妊娠しないという症例は昔からあったわけですが、ここで何が一番悪さをしているのかというと黄体ホルモンです。
黄体ホルモンが出始めてから、子宮の内膜は着床の準備をしていくのですが、自然周期では排卵に合わせて上がってくる黄体ホルモンが、卵巣刺激を行うと採卵前から上がってきてしまいます。つまり、内膜が早めに着床の準備を始めてしまうわけです。
さらに、昔は今よりも培養の技術が悪かったため、体外で培養すると受精卵の発育は少し遅めになり、新鮮胚移植では内膜が早めで受精卵が遅めで、インプランテーションウィンドウのずれが大きくなって妊娠率が下がるということが明らかでした。
今は凍結保存が主体になって、凍結障害がほとんどなくなっていますから、採卵した日に黄体ホルモンがある程度上がっていたら、まずは受精卵を凍結しておいて、内膜の状態を合わせて融解胚移植を行うのがベストです。たとえば、6、7日目の胚盤胞を凍結しておいて、5日目の内膜に移植すると遜色なく妊娠することもわかっています。ですから、着床の時期を考えるというのも治療の一つです。
当院では、2012年から全胚凍結を行い、受精卵のために一番いい時期に移植することを徹底しています。
子宮内膜の厚みが必要なのは子宮内を低酸素環境にするため
また、着床の条件をよくするためには、子宮内膜の環境を整えることも大切です。よく内膜の厚みがある程度必要だといわれますが、それはなぜかというと、卵が育つためには低酸素環境が重要だからです。
卵というのは基本的に、子宮外でも育ちますし、そこで胎盤もつくっていきます。つまり、子宮内膜がなくても卵というのは本来、育つ能力があります。そう考えると内膜自体、それほど重要ではないと思われますが、我々の丸裸の細胞というのは、酸素5%、二酸化炭素6%、窒素という環境が一番育ちやすく、体外培養もそのような低酸素環境で行っています。
卵管などを含め、体の中の多くは低酸素環境なのですが、子宮というのは血管の塊のような臓器で本来、高酸素環境です。そのため、着床の際には内膜がある程度厚くなることで血管から距離をとり、着床部位を低酸素環境にする必要があるのです。
ただし、子宮内膜というのはホルモン値をよくして待っていれば、大抵は厚くなるものですが、なかには本当になかなか厚くならないケースもあります。
その対策としては、当院では10年前からペントキシフィリン®という薬を輸入して服用してもらい、そのうえで抗酸化剤、ビタミンCやEを飲んでもらっています。これは、放射線治療で子宮内膜がほとんどない人に、ペントキシフィリン®を投与して妊娠したという論文に由来するものですが、実際、内膜が5㎜くらいしかない人でも双子を妊娠したという症例もあります。
また最近では、内膜が薄い人は、その時期だけでも抗酸化剤を大量に飲んで体全体を低酸素にして、体のいたるところで酸素毒を打ち消して細胞の成長をサポートしようということで、抗酸化ネットワークと呼ぶ複数の抗酸化物質を組み合わせたオリジナルサプリも開発し、服用をすすめています。
着床だけがダメで妊娠できないという人はいない
最後に、私の中では、着床だけがダメで常に妊娠できないという人はほとんどいないと思っています。
それは、子宮外妊娠という、かなり条件が違うところでも妊娠は起きるからです。さらに、反復流産や習慣流産の理論というのは、通常、自分以外の皮膚や内臓を移植したら拒絶反応があって当然なのに、ご主人でも自分でもない、その中間的な存在の受精卵が、子宮の中で育つのはおかしいというのがスタートラインでした。そこには拒絶免疫をブロックするブロッキングファクターがあるということもいわれていたのですが、その免疫学的なメカニズムというのはすでに否定されています。なぜなら代理出産でも同じ成績が出るからです。ですから、免疫的になにかをすればよくなるかということはあり得ません。
培養液や排卵誘発を変えるというのは、いい成熟卵を採るという意味ではきちんとすべきことですし、二段階胚移植やシート法などの移植法も、多少いいという意見もありますが、医学的エビデンスはありません。今のところ、移植の方法を変えて着床率が上がると言い切れるものはないと思います。
要は、着床が多くの妊娠の要因になっていると考えること自体、PGSも発達してきた今、考え直すべきことだと思います。
そういった意味で、子宮内膜の変化に合わせていく凍結融解胚移植と、低酸素環境を保つために内膜の厚みを確保する、その2つの条件は確実なものだと思っています。
浅田先生より まとめ
・“良好胚を移植したから妊娠できる”は間違った考え方
・黄体ホルモンの開始時期が、凍結融解胚移植のポイント
・着床には、子宮内膜の低酸素環境が重要
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.33 2017 Spring
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