「待つのも治療のひとつだよ」結果を急ぐ不安な私に先生の言葉がやさしく響きました。
結婚後、半年が過ぎたころもしかして不妊? と不安に
「30歳を過ぎるまでは、と結婚は意識していなかったんです」と笑顔で話してくださるEさん。ちょうど30歳になるころ出会ったご主人とは、その2カ月後に結婚を決めていた、というほど運命的な出会いでした。
「結婚したらすぐに子どもができると思っていたのですが、半年ぐらい経ってもなかなかうまくいかなくて、もしかしたら妊娠しにくいのかもしれない、と不安な気持ちが少しずつ大きくなっていきました。毎月、また妊娠できなかった…と思うと、不妊についてインターネットで見る回数がだんだん増えていきました」
Eさんご夫妻は春に挙式され、秋にはクリニックへの受診を考え始めました。「私自身、風邪をひきやすかったり、冷え性に悩んだりと体の不調がいろいろあったことと、35歳を過ぎたらもっと妊娠しにくいと一般的に言われていたので、焦りがありました」。
ご主人の検査をきっかけに不妊治療をスタートさせる
悩んでいたEさんの話を聞いて、ご主人も泌尿器科へ精液検査を受けに行くことに。「彼自身もなかなか踏ん切りがつかないなか、決断して検査に行ってくれました。2回の検査で結果がよくなくて、どこかに不妊治療に行ったほうがいい、ということで英(はなぶさ)ウィメンズクリニックを紹介してもらいました」。英ウィメンズクリニックは土日も受診できるので、ともに仕事をもつEさんご夫妻にも通いやすく便利でした。
検査にかかる時間が短い男性と比べて、女性は月経期、排卵の前後、排卵期と時期を分けて子宮や卵管を検査します。Eさんは月経後に実施する血液検査で甲状腺の病気の疑いがあるということで、近隣の甲状腺専門の病院での治療も並行して受けました。「妊娠するには数値が高い、ということで甲状腺刺激ホルモンを抑える薬を処方されました。妊娠した今も継続的に服用しています」。また、卵管の通りを見る検査を受け、左側が細いという指摘を受けましたが閉じているわけではないということで、タイミング法や人工授精での妊娠に期待をもちました。
毎回の不妊治療の流れは、「生理があったらクリニックで通水の予約を取り、生理後10日目ぐらいの排卵前に通水。そのあとに人工授精やタイミング法を試し、その後は子宮内膜を維持する働きをもつ黄体ホルモンの分泌を助ける薬を飲み、判定を待つ」というものでした。毎回の通水がとても痛かったとふりかえるEさん。「でも妊娠したいという気持ちと焦る気持ちが大きかったので我慢ができました」。
しかしその治療が4回目、5回目を数えても妊娠の兆候はありませんでした。
FTの手術を受けるも、体外受精をとうとう決断
そこで、治療は次の段階へと進みます。Eさんは「卵管鏡下卵管形成術(FT)」についての説明を受けました。この手術は狭くなっていたり詰まったりしている卵管を通すため、内視鏡を内蔵したカテーテルで卵管を観察しながら風船(バルーン)を膨らませて詰まっているところを広げるものです。「通水よりは卵管の通りも良くなり、体への負担も少ない日帰り手術だと聞いたので、受けようと決断しました」。
FTの手術を受けた後、一度は人工授精を試したEさんご夫妻でしたが妊娠に至りませんでした。あと数回は同じ方法で経過を見るつもりでしたが、一方でずっと迷っていたことがEさんの頭の中を占めるようになっていました。「このまま人工授精を続けていても、うまくいかない気がする。体外受精に踏み切ろうかな、と思い始めていたのです」。
英ウィメンズクリニックに通い始めた頃、Eさんご夫妻は体外受精のセミナーに参加していました。「どんなものか話だけは聞いておこうかなと。でもやっぱり怖いなと思うのと、自分で注射を毎日打つのができるのだろうかと不安でした」。
そんな時、院内の看護師さんによる看護師外来でカウンセリングを受ける機会が。「その方も体外受精の経験者で、自分の体験談を話してくれて。それを聞いていたら自分にもできるかな、と思い始めたのです」。
体外受精に踏み切るためにEさんが乗り越えたハードルは2つ。ひとつは自己注射です。体外受精では、採卵をするために毎日排卵誘発剤を注射しなくてはなりません。自己注射なら毎日クリニックに通わなくても済み、負担は軽減されます。「でも、先生の前で自己注射がしっかりできないと許可が出ません。これがなかなかできなかった…。つらかったです」。
もう一つのハードルは採卵。「毎日の注射でだるく、しんどかったですが、気を紛らわせるためにも仕事に行っていました。当日は、朝から採卵をして30分ほど安静にして、主人と一緒に帰宅しました。会社には不妊治療中であることを伝えてあったので、その後数日は休むことができました。
こうした採卵の過程に挑むこと2回、胚培養、胚移植を経てようやく妊娠判定が出たのでした。
子どもを授かりたいというモチベーションを常に保って
不妊治療を始めてから、ご主人をうまく巻き込んで治療に邁進したEさん。「でも、毎回落ち込んでばかりいました。排卵日前となると自分の中で緊張が高まるし、そのあとの結果が出るまでの間というのはものすごく長く感じるし。カレンダーばかりを見て生活していました。治療の中で注射を打ったり薬を飲んだりも大変だったけど、待つのが一番つらかった」。そのころ一番お世話になったのが、英ウィメンズクリニックの主治医の先生。「自分の中のイライラをじっくり聞いてくださいました。“待つのも治療だから”と言ってくださったのも先生です。最初から体外受精を選択すれば手っ取り早かったとは思う。それこそ当初自分が望んでいたように1年で妊娠できていたかもしれないと思うけれど、私たちが納得して体外受精に踏み切るためには、通水をして人工授精とタイミング療法を試し、FTを受けて、と段階を踏むことも必要だったと思います」。
今、妊娠7カ月を迎えたEさんの横顔は、とても落ち着いています。つわりなどの妊娠中のトラブルもなく、とても安定しているそう。時に落ち込むことはあっても、子どもを授かりたい、というまっすぐな気持ちを大切にして不妊治療に挑んだ自信が、その表情を輝かせているのかもしれません。
From Doctor 治療を振り返って
「前向きに未来を信じて待つ、これはとても大変なこと」
Eさんがいろんな思いで転機を迎えながら治療のステップを進まれたのがわかります。不妊治療では待つだけという時期が多く、しんどいですね。看護師外来で診療とは違う話を聞いたり、30分1対1でじっくり治療してもらえる鍼灸やレーザー治療を利用したり、悩んでストレスをため込んだりしないように、よいタイミングで上手に気分転換をされているのがよかったと思います。
ハードルが高いと思われがちな体外受精ですが、共働きのご夫婦などは体外受精のほうがコントロールしやすいこともあり、通院回数を少なくして早く妊娠をしたいという方にも早い段階で体外受精を勧めることがあります。心配な自己注射も、看護師が1人1人手技を確認してできるようになるまで一緒に練習しますのでご安心ください。
出典:女性のための健康生活マガジン jineko vol.35 2017 Autumn
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